中小企業家同友会の会員は4万6千人ほど。会社を強くしよう、理想の経営者になろうと各地で勉強会を開いている。この日、中村高明さん(中央)はさいたま市での勉強会に参加した=6月21日

 みなさん、ご存じですか? 日本にある企業の99・7%が中小企業で、働き手の7割が勤めていることを。「社会の主役は中小企業だ」
と宣言する文書が閣議決定されていることを。そんな主役たちが姿を消し続ける――それも「平成」の断面図です。(編集委員・中島隆〈中小企業担当〉)

6月5日、東京・永田町に、中小企業の経営者200人近くが集まった。

 全都道府県にある「中小企業家同友会」の面々だ。理想の経営者になって会社を強くしようと勉強する。自助努力だけではどうしようもない経営環境をよくする運動をしている。政治的な色は、ない。

 みんなの悲願は、民主党政権下の8年前に閣議決定された、ある宣言を国会の決議にすること。国会議員たちの決意を聞こうと集まったのだった。

 「中小企業憲章」と名づけられた宣言は、こんな一文で始まる。

 「中小企業は、経済を牽引(けんいん)する力であり、社会の主役である」

 こうも記されている。

 「政府が中核となり、国の総力を挙げて……どんな問題も中小企業の立場で考えていく」

 大企業偏重の社会を変えたい。中小企業庁があるからいいでしょ、ではなく、政策を全省庁で横断的に考えてもらう仕組みにしたい。そのためには、党派を超えて国会全体で意思表示することが必要だ。集まった人たちは、そう思っていた。

 けれど……。

 与野党の国会議員らはあいさつに立つものの、国会決議への意欲は、ほぼ語られなかった。

 「今は自民・公明政権さ、民主党時代のことは関係ないね」。福岡から来た中村高明さん(77)にはそうとしか聞こえなかった。

 〈命をかけて経営しとる人たちの思いを踏みにじるんか? あきらめんぞ〉

 中村さんは、福岡は直方市生まれ、慶応大卒。西日本鉄道に入るも、ベアリング屋を営む父が亡くなったので故郷に戻り、産業機械の「紀之国屋」として年商25億円にまで成長させた。

 福岡県中小企業家同友会に入ったのは1987年。2年後、平成になり、そして、バブル崩壊。多くの中小企業が倒産するのを目の当たりにした。

 あれは1998年、山一証券などの破綻(はたん)による金融危機まっただ中のころのことだった。経営者仲間にこう打ち明けられた。

 「銀行が、融資している5千万円をいったん返したら1億円貸すと言うとる。会社を大きくできるぞー」



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