「現代の支那は詩文の中の支那ではない。今は猥褻な残酷な、食い地のはった、小説にあるような支那だ。
豪傑はいそうだが、知識人・風流人はいなさそうな町だ。
「小便」の「尿臭」が酷い
日本の車屋は良いが、支那の車屋は不潔で、皆怪しげな人相。そして何やら大声でわめきたてている。
結局馬車に乗ることにしたが、馬車も馬が暴れるなど安心して乗れるものではない。着いたホテルもよくない。
売淫が盛ん。娼婦が日本語で誘う。女が淫戯を見せる店(魔境党)や、男が女に媚を売る店(男堂子)もある。
芝居小屋はキレイだが楽屋はやはり汚い。役者は美しい着物を翻し手鼻をかんでいた。
料理屋は薄汚い店がたくさんある。店内の居心地はよくなく無風流だ。
有名な店でも実際は荒廃した茶館で、その池には男がゆうゆうと小便しているし、敷石に小便の小川もある。
他の有名な店もトイレは料理場の流しだったりと似たような事情があった。
 -芥川龍之介 支那遊記