<人気の観光地でテロが起き、行き先選びに悩む時代。だが日本人の「安全性」に対する意識はどこかおかしい。本誌5月1/8日号「どこが危なくない? テロ時代の海外旅行」より>

東京で会社経営をする花霞(かすみ)和彦は年に10回ほど海外へ旅行に行く。自分でホテルと航空券を手配し、ほとんどは一人旅。これまでに100カ国以上を訪れ、
特に世界遺産は1000件超あるうちの3割以上を見てきたという旅の上級者だ。

だが意外なことに、世界遺産ギザのピラミッドを擁するエジプトには行ったことがない。「これまでに2、3回行こうと計画したが、その都度、アラブの春やテロが起こって断念した」

そんなエジプトにも今、観光客が戻りつつある。2月にプレスツアーでエジプトの観光業を視察した記者によれば、「ホテルもピラミッドも中国人でいっぱいだった」。
過去最高の観光客数は10年の1473万人。10年末からのアラブの春以後は政変に揺れ、観光業が大打撃を受けたが、昨年は11月までに750万人が世界から訪れている。

しかし、日本人の戻りは鈍い。エジプトは11年、観光客数が対前年比33%減と落ち込んだが、このとき日本人は年間13万人弱から3万人弱へと、一気に80%も減少した。
以来、1万?3万人台と低いままだ。

もちろん、誰だって危ない目には遭いたくない。だが「旅は基本的に危険なものと認識すべきだ」と、外務省と連携して海外に行く日本の個人や企業に危機管理情報の
提供などを行う、海外邦人安全協会の小野正昭会長は言う。「窃盗など海外旅行にはさまざまなリスクがあるが、近年はテロや自然災害、感染症など、防ぐのが困難な
リスクに直面してきている」

ここ数年、人気の観光地や欧米の主要国でもテロが相次ぎ、旅行先選びが難しくなってきたのは確かだ。15年のパリ同時多発テロ、16年の米フロリダ州ナイトクラブ
銃乱射事件、17年のロンドン橋テロ......。小規模な事件まで含めればきりがない。花霞のような上級者ですら影響を免れないのだから、旅慣れていない人はなおさらだろう。

これだけ世界が「危険」になったら、一体どこへ行けばいいのか――そう感じている人は少なくないはずだ。しかし、多くの観光業関係者が言うように、日本人は治安に敏感。
いやむしろ、敏感過ぎるのではないか。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/04/post-10030.php