京大、ミクロな情報量を計算する幾何学的公式を発見

京都大学(京大)は4月11日、量子ビットの「純粋化量子もつれ(Entanglement of Purification)」と呼ばれる
情報量を計算する幾何学的公式を発見したと発表した。

同成果は、京大 基礎物理学研究所の修士課程学生である梅本滉嗣氏と同 高柳匡 教授らの
研究グループによるもの。詳細は英国の学術誌「Nature Physics」に掲載された。

https://news.mynavi.jp/article/20180413-616137/images/001l.jpg
反ドジッター宇宙の境界にAとBの空間領域をとると、AとBをつなぐトンネルを反ドジッター宇宙の内部に
作ることができる (出所:京都大学Webサイト)

超弦理論では、D次元の反ドジッター宇宙の重力の物理法則は、D-1次元の物質の物理法則と同じである、
つまりゲージ理論と重力理論を統一的に扱うことが可能であるとする「ゲージ・重力対応」という考え方が
1997年に発見された結果、現在では、これら2つの物理法則が同じであるという多数の具体的な証拠が
示されながらも、このゲージ重力対応の基礎的なメカニズムについては、まだよく分かっていないという。

そうした中、2006年に高柳教授ならびに笠真生 シカゴ大学 准教授(現在)が「笠-高柳公式」とも呼ばれる
「ゲージ重力対応における量子もつれエントロピー(Entanglement Entropy)の面積公式」を発見。物質の
量子もつれエントロピーの大きさは、反ドジッター宇宙の最小断面積と等しい、つまり、物体Aと物体Bの
2つの間に共有される量子ビットの情報量(相関)は、物体に対応する宇宙の最小断面積に等しい、ということを
示したことにより、近年では「重力理論における宇宙は、量子ビットの集合体と見なせる」という考え方が
生み出され、世界中で研究が進められるようになっている。しかし、この公式で正しく情報量が計算できるのは、
AとB以外には物体が存在しない場合に限られるという制限があった。

そこで研究グループは今回、AとB以外にも第三者が存在する場合(混合状態)における量子的な情報量と
宇宙の幾何学の関係を見出すことに挑んだという。

具体的には、反ドジッター宇宙の境界にAとBの空間領域をとると、それらをつなぐトンネルを反ドジッター宇宙の
内部に作ることができるほか、近年の研究から、物質側におけるAとBの領域の情報は、反ドジッター宇宙側では
このトンネルの内部空間に反映されることが分かっていることから、このトンネルを特徴づける最も重要な
幾何学量が、その最小断面積であることに着目。さまざまな性質や計算を行うことで、量子情報理論で知られる
量子もつれエントロピーを混合状態に対しても使えるように一般化したものの1つである
「純粋化量子もつれ(Entanglement of Purification)」と一致するという強い証拠を得たとする。

さらに、計算を行ったところ、反ドジッター宇宙のトンネル空間の最小断面積を求める計算が、量子ビットの
立場ではまさしく「純粋化量子もつれ」の計算に相当することが判明したことから、「混合状態におけるAとBの
2体間の共有する情報量(相関)の大きさは、反ドジッター宇宙でAとBをつなぐトンネルの最小断面積に等しい」
という新たな公式の発見に至ったという。

https://news.mynavi.jp/article/20180413-616137/