公正であるべき行政が歪められるとどうなるか。最も悲劇的な結果でそれが示された。

財務省近畿財務局の職員が3月7日に自殺した。安倍晋三政権が掲げる「働き方改革」が聞いて呆れる。この職員は近畿財務局で森友学園への国有地売却を担当していた。

この事件が報じられた9日には、佐川宣寿国税庁長官が辞任した。政権は「適材適所」を主張してきた。ならばなぜ辞める必要があったのか。民進党の増子輝彦幹事長は「佐川氏は安倍首相を守ることに終始し、そういう意味では適材適所だった」と解説した(10日付『毎日新聞』)。

11日付『毎日新聞』によれば、昨年2月の問題発覚当時の理財局長だった佐川氏が「売却の経緯を説明する責任者として書き換えを指示したとみられる」という。事実とすれば増子氏の指摘がずばり当てはまる。

ついに12日になって、財務省は決裁文書の書き換えの事実を認めた。驚くべきは、これを前提にして「自民党幹部」が「改竄(かいざん)ではなく訂正はあ
ったようだ。そのレベルだ」と言い放ったことだ(11日付『産経新聞』)。たぶんあの首相の腰巾着議員だろう。公文書の厳正さに対する無理解ぶりを絶望的にさらしている。

12日付『産経新聞』は、途中で書き換えられた文書は14にものぼると伝えた。「1つの文書から交渉の経緯などを削除しようとしたところ、玉突きで次々に書き換えせねばならなくなったという」。

国会はオリジナルとは異なる資料を根拠にこれまで審議を重ねてきた。それに費やした膨大な時間はなんだったのか。今回判明した公文書改竄は国会を、そして国民を愚弄する行為だ。

ではその背景にはなにがあるのか。内閣人事局による霞が関の幹部人事の一元管理を政権が露骨に「活用」した弊害を、私は指摘したい。政権中枢に取り入る
ことに長けたヒラメ官僚が出世する。こうした新たな「お役所の掟」の定着を証明するものではないか。

一例を挙げよう。今年1月26日付で新しい駐米大使として杉山晋輔氏が任命された。彼はその10日前の1月19日付で外務事務次官を退官している。どの府省
も事務方のトップは事務次官である。しかし外務省の場合にはその上に駐米大使があり、これが事実上の最高峰ポストとなる。

元外務省職員の佐藤優氏は、「外務次官に上り詰めたい一心で、最初から無理だとわかっていても、ひたすら安倍政権にゴマをすろうとして失策を重ねる」と杉山氏を酷評している(同『外務省犯罪黒書』講談社エディトリアル)。

『読売新聞』の記者を長く務めた岸宣仁氏はこう述べる。「役人は人事がすべて──善きにつけ悪しきにつけ、やはりこれが三十年以上霞が関を取材し続けてきた私の結論である」(同『財務官僚の出世と人事』文春新書)。ここにつけ込んだ政権がいま大きなツケを払わされようとしている。

北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)による「国難」を持ち出して国民の目をそらす政権の常套手段も、米朝首脳会談の開催合意で封じられた。ある元政治
部記者から、安倍首相と麻生太郎財務大臣の間で「お前やめろ」「お前こそやめろ」と喧嘩になっているらしいとのメールが届いた。2人ともやめるしかあるまい。そして、この尊い死を贖え。

(にしかわ しんいち・明治大学教授。2018年3月16日号)
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