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おじさんの心に芽生えた「美少女」 VRがもたらす、もう一つの未来 56歳、自分のかわいらしさに心が…

筆者、満56歳であります。分別盛り、世間的には定年も近い。恥ずかしながらこの年になって、心の中に「美少女」が宿っている
ことに気づきました。自分が美少女になって動くアプリケーションを使ったところ、今まで一切感じることのなかった少女の気持
ちが心の中に生まれたのです。最新のバーチャルリアリティー(仮想現実、VR)技術がもたらす圧倒的な没入感と表現力は、人の
心の中にまで作用する力を持ち始めています。「おじさん」が「美少女の心」を感じるまでに何が起きたのか。専門家と一緒に考えてみました。(朝日新聞記者・丹治吉順)


自分のかわいらしさに心が跳ねる
 筆者も最初は、3Dアニメを作ろうとしてこのアプリを起動したのですが、ふと気がつくと、正面のスクリーンに映っているミクが、自分が動く通りに動いているではありませんか。

 それを見て、何となく、アイドルの少女がグラビア撮影でするみたいに首を少しかしげ、ほおに軽く手を添えてみました。

 「えっ?」

 心臓が軽く跳ねました。何、このかわいらしさ。自分とは似ても似つかない愛らしい美少女が、リアルタイムに自分と同じ動きをする。

 ちょっとポーズを変えてみます。首の傾きや顔の向き、手の動きなどはセンサーが瞬時に感知して、VR空間内のミクがほぼ自分の取った通りの姿勢をとります。

 視線も変えることができます。表情は、視線の方向と顔の向きなどによって、くるくる自動的に変わります。要はプリセット
(事前組み込み)なのですが、その変わり方が実に自然で多彩。ほとんど千変万化といっていいほどで、@MuRo_CGさんの力量を痛感します。

 コントローラーのボタンを押せば、自撮りもできます。撮影用のカメラは空間に浮かんでいるので、それを指でつまんで場所
や向きを動かせば、自在なアングルで撮影できます。

生まれて初めて自撮りに夢中になる
 こんな具合に、理屈はすぐ飲み込めました。それくらい直感的にできています。

 「じゃ、こういうポーズで、この方向から撮ってみると、どんな感じに写るわけ?」

 調子に乗って撮り続けます。視線は上目遣いよりやや下向きにした方が、自分好みのやわらかい表情が増す。顔の方向も、
少しうつむき加減にして、軽く横を向くと、愛らしい表情が引き出されるようだ――。

 解説書みたいに書いていますが、ミク=自分が思いもよらぬかわいい表情をすると、すかさずシャッターを切り、「今の、
かわいかったぁ」とひとりごちながらコツをつかんでいくわけです。

 逆に「もう少しかわいくできないかな?」とポーズや向きを変えるうち、元のかわいかった表情を再現できなくなることもあり、
そういうときは無性に悔しくなります。生涯で、これほど「自撮り」に夢中になったのは間違いなく初めてでした。