【謎の電話】

 伸矢くんが失踪し、捜索が行われると同時に、親戚宅の電話にテープレコーダーをとりつけた。
正伸さん一家が牛久市に帰る前日の16日、一本の奇妙な電話がかかってきた。正伸さんが電話を取ると、
「奥さんはいますか」という。語尾のあがる徳島弁独特のアクセントの女性の声がした。
圭子さんが電話を替わると、その女性は「ナカハラマリコの母親」だと名乗り、「成蹊幼稚園の月組の父兄です。幼稚園で見舞金を集めたのですが、
どちらに送れば良いのでしょうか。もう帰ってくるんですか?」と尋ねた。
成蹊幼稚園とは伸矢くんの姉が通っていた幼稚園だった。
圭子さんは明日帰るという旨を伝えたが、その後ナカハラマリコの母親から連絡はなかった。

 見舞金について、こちらから尋ねることもできず、しばらく黙っていたが、数日たって幼稚園に問い合わせてみたところ、
見舞金を集めたという事実はなく、ナカハラマリコという名前の子供もいないことが判明した。
 後から考えると、正伸さんから電話を替わる時に「誰かわからないけど、徳島弁だよ」と言っており、
茨城県にいて松岡さんの親戚宅の電話番号を知っているのも不自然である。また徳島県にいて伸矢くんの幼稚園の名前まで知っているのはおかしかった。
松岡さん一家の事情に内通している者の電話だと言えるが、これが手がかりとなることはなかった。