慰安婦合意検証 日韓不安定化は避けよ

 従軍慰安婦問題を巡る日韓合意に関し、「被害者の声が十分反映されなかった」とする
韓国側の検証報告書が発表された。問題はあったにせよ、日韓関係まで不安定にするべき
ではない。
 二〇一五年の十二月末に日韓の外相が発表した合意は、「最終的・不可逆的解決」を
うたった。民間の専門家らが五カ月かけて検証した結果は、合意を評価するどころか、
厳しい批判に満ちていた。
 合意に至る経緯と内容に関する数々の問題点を挙げたうえで、「政府間で解決を宣言
しても、問題は再燃するしかない」と指摘した。また合意に非公開の部分があったことも
明らかにした。(略)

 報告書は、合意破棄や再交渉までは求めていない。今後は文在寅政権が、この結果を
受けて、どう政策に反映させるかに移る。
 市民パワーに後押しされた文氏は大統領選で、合意の再交渉を公約に掲げた。大統領
就任後は「大多数の国民が情緒的に受け入れられない」と不満を表明しながらも、
再交渉には触れていない。
 逆に文政権は、対日関係では歴史問題と安保・経済協力などを切り離す「ツートラック
(二路線)」戦略で臨んでいる。
 日韓両国には共通する課題が多い。経済的、軍事的な影響力を急速に拡大する中国。
核・ミサイル開発を放棄しない北朝鮮への対応も、待ったなしだ。
 平昌冬季五輪、東京五輪では、首脳を含めた相互交流が欠かせない。安倍晋三首相と
文大統領は電話会談を重ね、すでに一定の信頼関係を築いている。
 歴史問題は重要だが、これだけでせっかく築いた両国関係を停滞させるのは、言うまで
もなく得策ではない。
 日本政府も、「被害者の視点を欠いていた」とする報告書の指摘について、謙虚に耳を
傾けてほしい。黙殺するだけなら、韓国の世論を刺激し、合意見直しを求める声が高まる
かもしれない。
 また、「日本は歴史を忘れようとしている」という誤解さえ招く危険もある。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2017122802000161.html