子どもたちが自らの出自を知ることは、国連の子どもの権利条約でも保障された権利だ。
欧米では告知することが当然とされ、出自に関する情報開示がルール化されている国も
ある。しかし日本では、告知の判断は親に任され、情報開示のルールもあいまいだ。
文京学院大学の森和子教授(児童家庭福祉学)によると、遺伝や家系に関する情報が養
子の成長に影響することなどが研究で明らかになり、日本でも告知の必要性が強く言われ
るようになったが、実際は告知に不安を抱える養親が少なくないという。
森教授は｢真実告知は事実だけでなく、大切な存在だと子どもに伝えることが重要。法律
などで明示し、縁組家庭特有の悩みを相談できる仕組みが必要だ｣と話す。
特別養子縁組に関する厚生労働省の調査によると、2014〜15年度に子どもが出自に関
する情報を求めたケースは児童相談所で15件、民間団体で9件あった。ただ、情報を開示
するかは児相や団体の判断となる。日本財団が13の民間団体に行った調査では、現時点
で開示について外部の専門家に相談する団体はなく、組織内で判断する団体が大半を占
めた。
出自に関する文書について、厚生労働省の調査で｢永年保存｣と回答したのは児相で約6
割、民間団体で約8割だった。児相が持つ社会的養護が必要な児童らの記録の扱いは、同
省の運営指針で｢満25歳まで｣｢養子縁組が成立した事例など、将来的に活用が予想される
場合は長期保存｣とされており、制度上は本人が25歳を過ぎると児相によって廃棄されてし
まう可能性がある。厚労省は14年、民間団体が持つ記録について｢永年保管｣を求める通
知を出した。児相の記録の取り扱いについては、｢今後検討を重ねていく｣(担当者)としてい
る。
養子縁組の記録保管などを調査している日本財団の徳永祥子研究員によると、アイルラ
ンドやフランスなどは、養子に託された理由などは一定の年齢以上になれば開示できる一
方、実親を特定できる情報の開示については実親の同意が必要だという。また、英国では、
養子縁組の記録の保管期間を法律で100年と定める。記録へのアクセスを支援する意識
も高く、ソーシャルワーカーや記録管理の専門家(アーキビスト)らが当事者からの問い合わ
せに対応している民間団体もあるという。
徳永さんは｢重要なのは、子どもが『自分は生まれてきてよかったんだ』と肯定的に人生
を捉えられるよう、生みの親の状況を理解し、養親との出会いを含めたライフストーリーを
紡ぐこと。記録の適切な管理に加え、情報の開示方法や子が生みの親に会いたいと言った
場合の再会支援など、国が制度として整えていく必要がある｣と話す。
(塩入彩、山本奈朱香)
朝日新聞
http://www.asahi.com/articles/ASKCJ0BRZKCHUUPI00B.html
