今回、「安倍が解散を決断」と一斉に報じられたのは、9月17日。実際の意向表明が25日、選挙公示は10月10日、
そして22日の投開票まで、有権者に与えられた時間はわずか1ヵ月だった。これで政党や候補者についての
十分な情報が得られるだろうか。米国の大統領選は、1年以上に及ぶマラソン選挙で候補者を徹底的に品定めする。
日本と同じ議院内閣制の英国では、2011年に成立した議会任期固定法によって総理大臣の解散権を縛る以前も、
下院議員の任期5年のうち4年間は解散を避ける慣例があった。ドイツの連邦宰相も、「宰相信任決議案の否決」などが
なければ下院を解散できない。選挙時期があらかじめ分かっていれば、有権者も政治家も十分な準備と対話を
重ねられる。成熟した民主主義国では、不意打ちは有権者不在の権力者によるエゴの発露と見なされ、
これを忌避する仕組みと政治家の姿勢が確立されている。解散権を「総理の専権事項」「伝家の宝刀」と
呼ぶような国に、民主主義に対する深い理解があるとは言い難い。カタルーニャの住民投票に国際社会が
冷ややかだったのも、「9割が賛成」という喧伝とは裏腹に、投票率は4割程度で、全有権者に占める
賛成票の比率が4割を切っていたためだ。

投開票日以前に投票を促す取り組みは、政党や候補者の政策や人柄をよく吟味して選べという要請に
逆行していないか。日本では近年、メディアが公示直後から情勢調査と称して世論調査結果を報じるため、
「どうせ結果は決まっている」と有権者に思わせ、低投票率に一役買っている面もある。期日前投票を行った
人の中には、「こんなことなら、別の政党や候補者に投票しておけばよかった」と悔やむ人もいるだろう。
この環境で早期投票を奨励するなら、せめて後悔投票制ぐらい導入しないと、選挙はますます空洞化する。
政権本位、行政本位の選挙の矛盾がはっきりした以上、これを放置するのは政治の不作為だろう。
その課題に目を向けず、緊急性の低い政策や人気取りに忙殺される政治が今後も続くなら、
成熟した民主主義国のリストから日本が外される日も遠くない。

月刊選択 2017年11月号
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