前川氏 私の60何年かの人生を振り返って、人間形成に影響を与えた人はいろいろいるとは思いますけれど、今のご質問は、父からの影響についてですか。
父からの影響を考えますと、やはり若いころから、少年時代から、仏教には非常に関心を持っておりました。私は大学時代、仏教青年会に入っていました。仏教といっても特定の宗派ではなくて、仏教一般。
特に、原始仏教とか根本仏教とか言われるもの、またそこから派生してきている大乗仏教の中でも禅仏教、そういったものに対しては関心を持っていました。
実際に座禅の修行をしたこともありますし、いまでもお寺を巡って歩くことが好きです。仏教の学習を通じて学んだ、培った世界観とか人生観というものは非常に大きいと思っております。

 ▽日韓学生交流

 前川氏は1975年の春、「日韓学生仏教会議」のメンバーとして韓国を訪れている。この時の心境や思い出をつづった「韓国訪問記」が東大仏教青年会の当時の雑誌に掲載されている。
二十歳の彼の素顔を知ることができる文章だ。

 一行は早大、慶大の仏教青年会の学生含め計8人で10日間かけて、ソウル、光州、慶州、釜山で同世代の現地の学生たちと交流している。

 前川氏は日本古代仏教における韓国仏教の影響について発表、その後の意見交換会での様子を次のように書いている。

 「特に印象に残ったのは、日韓併合時代に日本仏教の各宗派が政治権力の勢力拡張策と結びついた布教活動を行ったことを指摘されたことだ。それは思いがけないことだった。
僕たちはそんな『昔』のことは全く知らなかったからである。彼らは、日本と韓国の厳然たる過去の歴史をしっかりと踏まえて話をしていた。それは彼らにとっては抵抗の歴史であり、我々にとっては弾圧の歴史である」

 対談した学生の中にベトナム戦争に参加した27歳の学生がいた。親友3人を失ったと聞き、
「僕たちには絶対に分からない痛切な体験だ」「この物静かな仏教青年が何故銃をとって人を殺さねばならないのか?」と率直な感想を漏らしている。

 この少し年上の友人から仏教で世界を平和にしたいと話され、「僕もそう思う。このような愚かな対立を解消する力を、仏教はもっている」と記している。

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