スポーツライターの津田俊樹氏はこう首を傾げる。

「詩選手の試合後の振る舞いは、非常に残念でした。勝者を称えることなく、ただただ自分が負けた悔しさを感情的に表した。畳の横で慟哭すること3分近く。その間、試合進行は止まり、次の出場選手は入場口で待機を強いられていた。詩選手はその後、『すべてをこの一日のためにやってきたので、負けた瞬間は冷静に自分を保つことができなかった』と言いましたが、すべてを懸けてきたのは彼女だけに限らない。入場口に立ち、気持ちを高めて試合に備えていた選手は複雑だったと思う。

 詩選手は東京五輪の金メダリストで、世界屈指の柔道家です。負けた時こそ日本を代表する柔道家、武道家としての真髄を見せて欲しかった。号泣するなら誰もいないところですべきだった。今回の女子52キロ級を制したウズベキスタンのケルディヨロワ選手は、詩選手を破った直後も感情的に喜びを表すことなく、笑顔すら見せなかった。敗者への配慮、リスペクトを感じさせただけに、余計に詩選手の態度は残念でした」

 ケルディヨロワは金メダル獲得後の記者会見で、阿部との試合を振り返り、「彼女はオリンピックのチャンピオンであり、レジェンド。尊敬しているから、喜びたくなかった」と話したが、礼を重んじるその態度を報じる日本のメディアはほとんどなかった。TBS系のワイドショーにコメンテーターとして出演した元宮崎県知事の東国原英夫氏が、「お叱りを受けるかもしれないけど、阿部詩さんは、悔しいのは分かるけど、あの泣きというのはどうなのかなと思いました。柔道家として、武道家として、もうちょっと毅然として欲しかった。相手の選手みたいにして欲しかったなとは思います」と指摘した程度である。

「少なくとも、詩選手の態度は残念ながらグッドルーザー、良き敗者たれとはほど遠い印象を与えた。己の結果しか考えていない、自分勝手な振る舞いと批判されてもおかしくない。これは、日本スポーツ界のメダル至上主義、勝利至上主義にもつながる根深い問題だと思う。日本のメディアはそういう批判的視点には一切立たず、相変わらず『かわいそう』とお涙頂戴の報道に終始し、一二三選手との兄妹愛などを美談仕立てで報じるだけ。

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https://news.yahoo.co.jp/articles/e933802e3b86326042564bbeba50def6a5b98148