読売新聞2023/12/25 17:52
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第100回箱根駅伝は来年1月2、3日に行われる。前回総合6位から上位進出をうかがう早大のキーマンが、成長著しい「3本柱」だ。石塚陽士(3年)、伊藤大志(同)、山口智規(2年)は9月、チェコ・プラハで行われた10キロのロードレースに参戦。貴重な海外遠征の原資となったのが、クラウドファンディング(クラファン)で募った2025万円の寄付だった。箱根路では、OBらを中心とした期待の「投資」に応える恩返しの好走を誓う。(佐野司)

「クラファンなんて、本当に集まるの? というのが率直な感想でしたね」

2、3月に早大陸上競走部「駅伝強化プロジェクト」と題して寄付を募った時のことを、伊藤は苦笑まじりに振り返る。昨年6月に就任したOB花田勝彦監督の発案で、初の試み。2011年から遠ざかっている箱根駅伝総合優勝、さらに世界に通用するランナー輩出のため、部員の海外遠征や国内強化合宿費用に充てるための取り組みだった。

蓋を開けると、3月末までに649人から2025万円が集まった。当初の目標金額500万円をはるかに超え、OB、OGや駅伝ファンらの期待の大きさを物語る結果に。伊藤は「すごい速さで、すごい額が集まった。自分たちを支援して下さる方々がすごく多いんだなと実感した」と驚き、同時に「クラファンは自分たちの価値をお金に代えてもらうという行為。その対価をしっかり還元していかないといけない」と身を引き締めたという。

花田監督の狙いは「個」の強化にあった。自身も早大4年時に欧州遠征を経験して大きな刺激を受け、後の五輪出場などの活躍につなげた経験を持つ。「吸収力の高い時期に海外を経験すれば大きな財産になる。箱根はもちろん、その先でさらに活躍できる選手を育てたいという思いがあり、クラファンによる遠征をそのスタート地点にしたかった」。多大な支援に感謝しつつ、エース格として期待する2、3年生を武者修業に送り出した。

迎えた9月。遠征したプラハの地で、3人は得がたい経験を積むことになった。人生初の海外だったという石塚は、食事や水の違い、時差への対応に困惑。山口は長旅の疲れもあり、レース前にじんましんが出た。本番でも、各選手が次々と仕掛けていく速い展開、石畳を走る不安定なコースなど、国内大会との環境の違いを痛感した。「心身ともにタフになれた」と口をそろえる。海外選手のレベルの高さを肌で感じられたのも収穫だった。

 濃密な時間が確かな手応えにつながっている。山口は遠征後の11月、上尾シティハーフマラソンで大迫傑(ナイキ)の持つ早大記録を更新する1時間1分16秒をマーク。「プラハで世界との差を感じ、もっと視野を広げて練習に取り組まないといけないなと思った」と、質の高いトレーニングを重ねて好記録を生んだ。11月の全日本大学駅伝3区で健闘した石塚も、「前半から速いペースの中でどれだけ耐えるかが大事というのは、プラハで学んだことだった」と振り返った。

 100回大会を前に、次期駅伝主将就任が決まった伊藤は顔を引き締める。

「寄付していただいたみなさんが求めているのは、プラハの経験をどれだけ箱根につなげられるかだと思う。遠征で学んだことを選手間で共有し、チーム全体の強化にもつなげなくてはいけない。(クラファンで)得たものを最大限に生かしたい」

 伝統の重みと、期待への感謝――。名門復活を託された選手たちは、強い使命感を胸に、箱根のスタートラインに立つ。