映画情報2023.12.22

【坂本朋彦のシネフィル・コラム】

12月25日(月)[BS]午後1:00〜3:04

今回ご紹介するのは今年で製作40年となる、大島 渚監督の名作。3月に亡くなった坂本龍一の映画初出演作です。

第二次大戦下の日本軍俘虜ふりょ収容所を舞台に、異なる国に生まれ、異なる文化や価値観を持つ男たちが衝突する物語。戦闘シーンは一切なく、男たちが、やがて互いを理解し、受容するクライマックスは圧倒的な感動を呼び起こします。

俘虜の英国軍人セリアズの反抗的な態度に悩まされながらも、次第にひかれていく所長のヨノイ大尉を演じた坂本龍一。
細野晴臣、今年1月に亡くなった高橋幸宏と結成したイエロー・マジック・オーケストラで注目されていたミュージシャンでした。エリート軍人としての苦悩、セリアズへの恋慕、ヨノイの複雑な感情を見事に表現しています。
粗暴でありながらも素朴なハラ軍曹を演じたのがビートたけし。ラストシーンの、あの表情は忘れられません。撮影中は大島監督の演出を観察していたというビートたけし。
本作の6年後には、北野 武の名前で、 「その男、狂暴につき」(1989)で映画監督デビューし、世界的な映画作家となりました。
セリアズを演じたデビッド・ボウイはブリティッシュ・ロックを代表するミュージシャンで、演技にも深い関心を寄せていました。
大島監督はボウイ出演の舞台劇「エレファント・マン」を見てオファー、ボウイも大島作品のファンで、出演を快諾しました。

大島監督は、本作の製作当時、ワイドショーをはじめ数々のテレビ番組に出演し、歯にきぬ着せず発言するコメンテーターとして知られていました。
反権力の鋭い問題提起と、傑出したセンスの演出で、死刑問題を扱った「絞死刑」(1968)や、貧困と犯罪、家族を描く「少年」(1969)、男女の性愛を描き物議をかもした「愛のコリーダ」(1976)など、
傑作を発表してきた大島監督。彼にとって、国際的なキャスト・スタッフの本作は最もスケールの大きい作品となりましたが、異色のキャスト、大島監督の知名度も相乗効果となって大ヒットとなりました。

坂本龍一はこの作品で、みずからが音楽も担当することを大島監督に提案し、初の映画音楽の作曲をしました。シンセサイザーを使い、美しくもはかなさを感じられる主題曲は映画をドラマチックに盛り上げ、
坂本の音楽のなかでもひときわ人気の高い曲となりました。その後、坂本はイタリアのベルナルド・ベルトルッチ監督の「ラストエンペラー」(1987)でアカデミー賞を受賞するなど、世界的な映画音楽家としても活躍しました。

男たちのエモーションがさく裂する美しい作品。どうぞご堪能ください。

※大島 渚監督の「渚」は、正式表記では つくりにあたる“者”の中心に点があります。お使いの端末の環境によって正しく表示できない場合があります。

プレミアムシネマ「戦場のメリークリスマス」
12月25日(月)[BS]午後1:00〜3:04

そのほかの映画情報は

https://www6.nhk.or.jp/nhkpr/post/original.html?i=40953

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坂本朋彦
【コラム執筆者】坂本朋彦(さかもと・ともひこ)
1990年アナウンサーとしてNHK入局。キャスターやニュースなどさまざまな番組を担当。2014年6月からプレミアムシネマの担当プロデューサーに。