毎日新聞
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2023/11/26 09:21

「なぜボール遊びはダメなの?」。全国に11万カ所以上ある国や自治体が設置する「都市公園」で、ボール遊びが禁止されているところは少なくない。制限する自治体は全国で6割に上るとの調査もあるが、住民らがルール作りに関わることで自由を取り戻そうという動きがじわりと広がる。都市公園の制度ができて今年で150年。公園で起きつつある変化を探った。

「こっちに投げて!」。福岡市中央区の住宅街にある草香江(くさがえ)公園。1200平方メートルあまりの園内の広場で、ゴムボールを使ってキャッチボールをする兄弟の表情は明るい。この公園では硬式や軟式野球ボールなどの硬いボールは禁止されているが、軟らかいボールの利用は可能だ。見守る父親は「ボール遊びができるのはありがたい」と目を細めた。

もともと、園内のボール遊びは一律で禁じられていたが、守らない子どもも多く、周辺住宅の敷地にボールが入るなどして住民から苦情が相次いでいた。

市が対応に苦慮する中、「話し合いで解決できないか」と考えたのが地域の公園愛護会の会長、嶽村(たけむら)久美子さん(73)だ。2016年に市などと約300世帯にアンケートを取り、ワークショップを開くと「小さな子ども連れがボール遊びを怖がっている」との声が上がる一方、子どもからは「ルールが厳しくなると遊び場がなくなる」との意見が出た。

こうした声を踏まえ、嶽村さんらは公園利用の基本ルールを作成。バットなどボールを打つ道具の使用を禁じたが、軟らかいボールで遊ぶのは認めた。フェンスなどに当てなければサッカーもできる。公園で禁止されることが多い花火も、手持ちであれば大人の見守りを条件に可能とした。

ルール作りの経緯や内容を書いた冊子を作り町内で配布すると、トラブルは減った。嶽村さんは「立場や考えが異なる人が集まるからこそ互いに納得することが大事だ」と強調する。

都市公園を規定する「都市公園法」には遊び方について特段の禁止項目はなく、制限しているのは管理する自治体などだ。

19年に千葉大大学院生らが全国399自治体を対象に調べたところ、回答した276自治体の約6割が公園のボール遊びを規制。近隣住民からの要望を理由に挙げた自治体が多く、規制開始時期や理由を「不明」とした自治体も目立った。

大学院生時代に調査に携わり、現在は日本体育大の「子どものからだ研究所」に所属する寺田光成助教(造園学)は「自治体が公園を個々に管理するのは限界があり、特に都市部は一元的になる面もある。ただ、ルール策定の方法や理由はブラックボックスで、見直す時期にあると感じた」と振り返る。

自治体も試行錯誤を重ねる。

大阪市はボール遊びを一律禁止していたが、14年から市内13公園で認めた。18年には、約980の公園のうちボール遊びの実態がある公園の9割で苦情がないことを確認し、一律禁止をやめた。新たなルールはあえて作らず、推移を見守っているところだ。

千葉県船橋市は中学生からの要望を受け、15年に「ボール遊びのできる公園検討委員会」を設置。翌16年にボール遊びができる公園の運用を始めた。他人の迷惑にならないことを条件に、広場を含む33カ所でボール遊びができるようになっている。

利用者が自ら使い分けられるよう工夫している自治体もある。熊本市は21年度に「ボール遊びおすすめ公園マップ」を作成し、ボール遊びがしやすい公園が一目で分かるようにした。新たに公園を作る際は住民参加のワークショップを開いて設計に反映する。

日本の公園の始まりは明治6(1873)年の「太政官布達(だじょうかんふたつ)」にさかのぼる。布達から150年を迎えるのを前に、国土交通省の検討会は22年10月、「都市公園新時代」と題する提言を発表。画一ルールの見直しや利用者の合意形成によるローカルルールづくりを進めるなど、国や自治体に提言に沿った公園運用などを求める。

駒沢大の萩原建次郎教授(社会教育学)は「公園は遊びが保障される公的な空間だが、安全意識と責任論が強まり、遊具の撤去や規制が進められた面がある」と指摘。「本来は異世代と交流したり譲り合ったりして公共性の原体験を積む場所で、物理的な制限や監視は子どもの発達にもよくない。トラブルや公園ルールは話し合いで解決することが大切で、清掃や防災訓練など日ごろから多世代で地域交流することが相互理解につながる」と語る。【田崎春菜、谷由美子】