「この事件を巡って、有愛さんは宙組の『お父ちゃん』と呼ばれる世話役や、総務部長にもメンタル面の辛さを訴えていましたが、劇団側は取り合わなかった。彼女が苦にしていたのは文春に記事が掲載されたこと自体ではなく、イジメの事実をなかったことにされ、むしろ総攻撃されたことによる絶望だったのです」

 遡ること約2年前。21年8月のある日の出来事だ。天彩に呼び止められた有愛は、こんな言葉を交わした。

「芹香さんから『有愛に前髪を教えてあげて』と言われたからさ」

「でも、ヘアセットは自分でやります」

 ロッカー室に連れて行かれた後、しばらくして有愛は下級生のいる楽屋に戻る。だが、彼女たちは有愛の額を一瞥し、目を剥いた。3センチほど赤く、皮膚が捲(めく)れていたのだ。その場に居合わせた下級生が当時の様子を打ち明ける。

「あまりに痛々しかったので、たくさんの生徒が心配して集まり、『どうしたんですか』と声を掛けていました。有愛さんは涙を堪えて『自分でアイロンをすると言ったのに奪われて、押し当てられた』と。火傷を負わせた天彩さんは、痛がっている有愛さんを部屋に残して退室したそう。彼女はナースが常駐している劇場内の診療所へ塗り薬をもらいに行っていました。数日後、患部は黒ずみ、かさぶたになっていました」

 下級生の多くは、日常的に繰り返された天彩の虐待行為を鮮明に記憶している。

「当時、天彩さんは出番直前まで有愛さんに怒鳴り散らしていました。そればかりでなく、新人公演の髪飾り、カツラ、アクセサリーなどを何度も作り直すように命令。夜通し作業をさせ、寝不足で声が出なくなるように仕向けていたのです。有愛さんは次第にボロボロになり、多くの仲間が心配していました」(同前)

 その延長線上に起こったのが、ヘアアイロンを巡る事件だったのだ。果たして、有愛の額にできた傷跡は過失によるものなのか。火傷の症例を多く診てきた東京メディカルクリニック平和台駅前院の木島豪院長が次のように解説する。