入団1~7年目の若手が普段上級生がやる役を演じる新人公演。ファンにとって次世代スターを見つける機会として注目度が高く、若手には輝かしい将来を約束する檜舞台になる。最年長の入団7年目として新人公演のリーダーを任されていたのが有愛だった。だが、前述のように稽古場の一面には茨が敷かれていた。本公演初日を翌日に控えた9月28日朝8時半。有愛は約50人の下級生全員を集め、みずからを鼓舞するように話した。

「失敗を皆で共有して繰り返さないようにしよう」

 通し舞台稽古のため、楽屋入りしたのは午前10時のこと。だが、そこで繰り広げられたのは、下級生らが思わず目を背けたくなる暴力的な光景だった。

「稽古中、有愛さんは4人の上級生から『下級生の不手際は、すべてお前の責任だ』と“集団リンチ”のような目に遭っていました。舞台袖の出番直前にも彼女たちが有愛さんに執拗につきまとって大声を出す。休憩中にも、代わる代わる延々と詰め寄られていました」(前出・生徒)

 詰め寄った4人のうち1人は、宙組最年長の松風だ。

「マインドが足りない。マインドがないのか!」

 有愛に顔を近付け、何度も罵声を浴びせる。休憩時間には芹香が有愛を睨め上げ、若手の態度について大声で罵る。続いて新人公演で有愛が演じる役を本公演で担当する花菱(はなびし)りずの怒鳴り声が教室内に響き渡る。

「この嘘つきが!」

 殿(しんがり)に控えていたのは、元プロ野球選手の清原和博の親戚として知られ、ファンから「きよ」の愛称で呼ばれる優希しおんだ。彼女は花菱と歩調を合わせるように「嘘つき野郎!」と面罵。有愛を監視し、プレッシャーを与え続ける役割だった。この場に居合わせた劇団関係者が言葉を続ける。

「花菱が怒鳴った後は、必ず優希が便乗して有愛を怒鳴りつける。優希は陰湿な下級生イジメの常習者で下級生は皆恐れています。花菱はあえて優希を有愛に当て付け、叱るように仕向けているように見えました」