小泉信一 メメント・モリな人たち

2023年09月30日
 
 その死はあまりにも衝撃的でした。「おやじ、涅槃で待つ」との遺書を残し、31歳で生涯を終えた俳優・沖雅也(1952~1983)。
「太陽にほえろ!」(日本テレビ)のスコッチ刑事はじめ、「必殺」シリーズ(朝日放送)や「俺たちは天使だ!」(日テレ)など数々のドラマに出演、人気絶頂の最中で何が起こったのか? 
朝日新聞編集委員・小泉信一さんが、様々なジャンルで活躍した人たちの人生の幕引きを前に抱いた諦念、無常観を探る連載「メメント・モリな人たち」。クールでダンディな印象が強烈に残る名優の人生に迫ります。

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スコッチ刑事

 マカロニ、デンカ、ゴリ、テキサス、ロッキー…。
 1972(昭和47)年に始まったテレビドラマ「太陽にほえろ!」に登場する刑事には、
それぞれユニークなニックネームが付いていた。松田優作(1949~1989)が演じたジーパン刑事・柴田純もそのひとり。
男に撃たれ、「な、な、何じゃ、こりゃー」と手に付いた血を見て叫び、殉職を遂げるシーンは、今も語り草の名場面である。
 当時、私は小学生。「男っぽいなあ~」と毎回胸を躍らせながらドラマを見ていた。
 中でも気になる刑事がいた。若いがキザなスコッチ刑事・滝隆一。「ダンディー」という言葉が似合う刑事だった。1976年9月10日放送の第217話から登場した。
 三つ揃いの英国製スーツに身を固め、ワイシャツの襟はどこまでも高く、煙草は高級サン・モリッツ。紅茶を愛する紳士である。
だが、初日から遅刻し、同僚に挨拶すらなく、上司の命令も無視。一方、犯人を容赦なく追い詰める非情な男でもあった。自分の感情をあまり表に出さないクールな男と言えるだろう。
 演じたのは沖雅也。「甘いマスク」だが冷たいスコッチ刑事の内に秘めた「優しさ」を表現するのに、ぴったりな顔立ちだったのではないか。
沖は当時24歳。「太陽にほえろ!」という超人気ドラマでの難役を見事に演じたと言えるだろう。
 将来が楽しみな役者だった。
 だが、1983(昭和58)年6月28日、沖は東京・西新宿の高層ホテルから身を投げ、31歳の生涯を終えた。
最上階(47階)の非常口バルコニーにいた沖を警備員が発見し、「危ない」と声を掛けたが間に合わなかったと言われている。
 いずれにしても、あの日、何があったのか、当日の朝日新聞夕刊をもとに3日前から振り返る。




「おやじ、涅槃で待つ」
https://www.dailyshincho.jp/article/2023/09301100/?all=1