ロッキーが登場しない“始まり”の物語
「お前の時代だ」──シルヴェスター・スタローン演じるロッキー・バルボアは前作「クリード 炎の宿敵」の最後、アドニス・クリードに新たな時代を託した。無名時代に自ら「ロッキー」の脚本を書き、自分で主演することにこだわったスタローン。米フィラデルフィアの片隅でしがないボクサーとして泥臭く生きてきた男が、キャリアの絶頂にいたヘビー級チャンピオンと堂々と戦い抜く。何者でもなかった“イタリアの種馬”が階段を駆け上がる不屈の闘志、そして試合の勝敗を超えた闘いのドラマが人々の心を打つ記念碑的シリーズとなった。

2015年にその新章として始動したのが、ロッキーの永遠のライバルであり盟友アポロ・クリードの隠し子、アドニスを主人公に据えた「クリード」シリーズ。卓越したボクシングセンスは父親譲りだが、その偉大すぎる存在こそが彼を苦しめていた。1作目「クリード チャンプを継ぐ男」は父親の影を振り払い、世界チャンピオンへの足がかりをつかむ物語。2作目「クリード 炎の宿敵」では、かつてリングでアポロを死に追いやったイワン・ドラゴが登場。ロッキーに敗北してから祖国ロシアで辛酸をなめたドラゴとその息子ヴィクターが、王者の座をつかんだばかりのクリードの前に立ちはだかった。いずれも「ロッキー」の歴史を継承しつつ、新世代の物語を紡いだ。

そしてクリードを知り尽くしたマイケル・B・ジョーダンが自ら監督を務めた「クリード 過去の逆襲」でサーガ史上最大の死闘が幕を開ける。アドニスの歩みは、ロッキーとアポロという先人たちの人生と重なりながらも、彼らの存在を1歩1歩乗り越えるものだった。しかし、頼れるセコンドであり、時にアドニスの父親代わりとなったロッキーは本作に登場しない。スタローンは製作に名を連ねるものの、正真正銘、アドニス・クリード単独の物語となった。ジョーダン本人も「本作は始まりを描く物語であり、続編であり、3部作の最後でもある」と認めている。

最新作はチャンピオンとしての輝かしい現役生活を終え、リングの外側で働くアドニス、そして成長した娘を中心にした家族の物語。彼の前に現れるのは、ボクサーとして有望視されながら、ある事件をきっかけに18年間を刑務所で過ごした幼なじみのデイムだ。忘れたい過去を体現するデイムの存在は、アドニスのアイデンティティを揺るがし始める。兄弟同然のように育ちながら、片や誰もがうらやむ生活を送るアドニス、片や何もかもを失ったデイム。まったく異なる人生を歩んだ2人は激しい確執の末、同じリングに上がる。彼らの身に起こった事件とは。そして2人のトラウマと痛みとは。

批評家・観客ともに大絶賛
マイケル・B・ジョーダンの華々しい監督デビュー作
ひと足早く3月3日に封切られたアメリカの映画サイト・Rotten Tomatoesでは批評家89%、観客96%という高評価を維持。興行成績もシリーズを重ねるごとに右肩上がりで伸ばし、「過去の逆襲」が最大のヒットとなった。「私はアドニス・クリードとともに成長した」と語るのは、もちろん本作で華々しい監督デビューを飾ったマイケル・B・ジョーダン。「個人的に極めて重要な時期に彼を演じるチャンスをつかんだ。そしてシリーズ3作目で、私が人生でたどり着いた場所を示しつつ、アドニスが人生において今どんな場所にいるのかを伝えられることに、格別の思いがある」と、その胸中を明かす。

日本のマンガやアニメから影響
ボクシング映画の常識を覆す試合描写
日本のマンガ、アニメ好きとして知られるジョーダンだが、その影響は初監督作にも色濃く出ている。本人も「ドラゴンボール」「NARUTO -ナルト-」「ワンパンマン」といった作品からの影響を公言しており、中でも実写映画の限界を攻めた試合シーンの超現実的な描写は、ボクシング映画の見せ場として非常に画期的だ。アドニスとデイムの光と影を象徴するようなライバル関係、文字通り拳を交える中で浮かび上がるドラマ、時に主人公以上に輝くデイムの姿には、週刊少年ジャンプの作品など日本のマンガやアニメを想起する人も多いだろう。

※以下出典先で

映画ナタリー 2023年5月19日
https://natalie.mu/eiga/pp/creed3

「クリード 過去の逆襲」予告編公開中
https://youtu.be/ShrdoZKTFyo