天皇賞(春)は4月30日、京都競馬場で行われる。2019年にこの世を去った無敗の三冠馬・ディープインパクトが驚異的なレコードタイム「3分13秒4」でこのレースを制したのは17年前の2006年のこと。

 実はこの世界的な名馬は、3月のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で頂点にたった侍ジャパンの指揮官・栗山英樹監督と熱すぎる交流があった。栗山監督下の日本ハム番記者が、名馬との秘話を振り返る。


「ディープ、勝ち方を教えてくれ!」

 2016年1月12日、午後2時16分。日本ハムの指揮官として5年目を迎えていた栗山監督に、至極の瞬間が訪れた。種牡馬となっていた伝説の名馬・ディープインパクトが目の前にやってきたのだ。居ても立ってもいられない。

 一番聞きたかったことをシンプルな言葉で投げかけたのが、後の世界一監督と世界的名馬のファーストコンタクトだ。日中も氷点下だった真冬日に熱気を帯びたピュアな魂の叫びが、北海道安平町にある社台スタリオンステーションに響いた。

 目をキラキラと輝かせて、栗山監督がディープの顔を見上げる。そして、牧場関係者に尋ねた。

「触っていいですか?」

 許可を得て、恐る恐るディープの左肩付近へ右手を伸ばした。馬体に触れると優しい手つきでなでた。ディープも左横に振り向いて栗山監督の目を見つめた。

「すごい……ディープ、ありがとう。勝つよ。頑張るからね、オレ」

 やはり栗山監督はディープから金言を授かっていた。感謝を伝えて神秘的な約10分間の初対面が終わった。


栗山監督にとってディープは「大先生」

 社台スタリオンステーションは日本競馬会の至宝サンデーサイレンスやトウカイテイオー、スペシャルウィークなど、数々の名種牡馬がけい養されてきた。そんな勝利の遺伝子を伝承する場所は、栗山監督が今も生活拠点を置く栗山町から車で約1時間の距離にある。

 そんな"地の利”も生かして、栗山監督はディープとのアポ取りに成功。圧倒的な実力で勝利を重ねた強さに憧れていた名馬と念願かなって対面を果たし、監督就任前に務めていたスポーツキャスター時代の腕をふるうかのように“取材”し始めた。

「ディープは馬かもしれないけど、我々にとっては大先生だから」

 人馬の垣根など、最初から考えないのが栗山流だ。スポーツの世界に身を置く同士、見て聞いて感じたことすべてが、野球にも落とし込める学びにつながると信じて足を運んだ。

 ディープとの対面後は、その素顔について牧場関係者を次々と質問攻めにした。

「普段も穏やかな性格をしているんですか?」

「ディープが一番うれしそうな時は?」

「やっぱり走るのが好きなんですか?」

 一つ一つの答えに、真剣に頷く指揮官。“取材”を重ねていくうちに、「勝ちきること」の極意を掘り当てたようだ。ディープは現役時代から気性が穏やかで、余計なことは一切しないという。レースへ向けて無駄な体力を消耗せず、真面目に調教に臨んでいたという。そして、デビュー前から牧場を走り回っていたことも聞いた。

「ディープは(デビュー前から)真面目で品が良かったと。そういう選手を育てないと安定して勝てない」

「誰よりも走ることが好きだったんだと思う。やっぱり野球も誰よりも好きでやらないと勝てないんだ」


ディープは大谷翔平。オルフェーブルは…

 競馬にも野球にも共通する強さの秘訣を再確認した。ちなみに、栗山監督との対面中にムシャムシャと芝生を食べ始めた一場面からも、万事共通の大物感を感じ取っていた。

 その姿に、自然と重なったのは、当時プロ4年目で「二刀流」を本格化させていた大谷翔平投手だ。この時、栗山監督は史上7頭目のクラシック三冠馬オルフェーヴルとも対面している。生まれ持ってのスター性と堂々とした佇まいのディープ、やんちゃで個性あふれる走りで名馬となったオルフェ。

 この2頭を引き合いに、後に牧場関係者は「ディープが大谷投手だとすると、オルフェは中田(翔)内野手だと栗山監督が来場した時に言っていました」と明かしている。

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