NEWSポストセブン2023.03.18 16:00
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■大会にはWBC出場国の代表も参加
「ほらほら、あの人、ドラ1(イチ)、ドラ1!」

 プロ野球・福岡ソフトバンクホークスの2019年ドラフト1位指名、佐藤直樹選手が試合前に練習場で体をほぐしている。その姿を遠目に見つめながら興奮気味に言葉を交わしているのは、東京大学運動会硬式野球部の選手たちだ(運動会は他大学の体育会にあたる)。東大生であろうと、野球部員にとってプロ野球選手は“雲の上”の存在だ。しかも彼らはこれから、その憧れのプロ球団と試合に臨むのである。

 プロとアマの対戦は、なぜ実現したのか? この時期、九州各地で温暖な気候を求めて学生・社会人・プロを問わず様々な野球チームが春季キャンプを張る。そうしたチームに呼びかけて所属リーグの垣根を越えた夢の交流戦を実現しようと、鹿児島県で今年2~3月にかけて「薩摩おいどんカップ」が初めて開催された。

 大学と社会人チームのほか、プロ野球から巨人とソフトバンク、さらには今注目のWBCのため来日した中国代表まで加わり、総勢37チームが参加。その一環として東京大学とソフトバンクの3軍の試合が3月4日に行われることになった。これは注目の一戦だ。

 東大野球部は、所属する東京六大学リーグで20年以上、最下位が定位置になっている。高校野球の強豪選手を擁する他大学とはどうしても厳しい戦いになる。そんな中、今年の主将・梅林浩大内野手は東大には珍しく、高校時代に春のセンバツ野球大会でベンチ入りした甲子園経験者である。今回のプロ球団との対戦をどう受け止めているのか。

「ぼくらはみんな野球が好きで野球部に入ってきていますので、こんなカードを組んでいただけたっていうのがすごく楽しみです。プロと対戦なんてもちろん初めての経験ですし、なかなか緊張する場面でもありますね。自分たちがプロを相手にどれくらい力を出せるのか不安もあります」(梅林選手)

 梅林選手が考える東大野球の持ち味はどういう点にあるのだろうか。そして、プロの対戦という珍しい状況でどういった「目標」を設定しているのか。

「足っていうのが強みというか、それだったら他大学にも対抗できるんじゃないかっていうことで2年くらい前から走塁練習に力を入れています。最近は六大学でも警戒され始めてるんで、きょうの試合でも足を使って(盗塁して)いきたい。相手がプロなのでどれくらい走らせてくれるかわかりませんが、積極的にいこうと思います。プロ相手に厳しいとは思いますけど、もしかしたら勝てるかもしれないという気持ちは持ちたいですね」(梅林選手)

■“どさくさで勝つ”が東大流
 当然ながら選手の梅林主将はあくまで前向きだが、指揮官は状況を冷静に見ていた。監督に代わり現場で指揮を執る大久保裕助監督はこう語る。

「相手は3軍といってもプロですから、ちょっとでも気を抜くとガガガッとワンサイドゲームになっちゃう。なんとか“野球”になるように頑張っていきたいですね。強豪大学は練習試合でプロと対戦する機会もあるでしょうけど、東大野球部がプロ球団と対戦するのは近年はありません。せっかくの機会なので胸を借りるつもりで思い切ってプレーしたいです」

 東大が目指す「勝ちパターン」「勝利の方程式」はあるのか。大久保助監督が続ける。

「そうですね、耐えるっていうかね。エラーで自滅するパターンにならないように守りでバッテリー中心に粘って、試合の前半をなんとか接戦に持ち込む。後半に試合がもつれこんでくる中で、数少ない得点のチャンスを生かして“どさくさ”で勝っちゃうみたいな(苦笑)」

 選手たちは東大の入試を突破するため、受験勉強で我慢と粘りを培ってきた。だから“耐える”ことには慣れている、ということのようだ。では、東大生ならではの頭脳が生きる場面はあるのか。

「それは研究熱心なことですね。相手チームのビデオもよく研究していますし、野球に関するいろんな情報を吸収して役立てていく力は大したものですよ」(大久保助監督)

 実際、どの試合でもバックネット裏で分析担当の部員が投手の投球をすべて録画し、球速や球種などをその場でパソコンに入力している。打者についてもそれぞれの打席の時間を記録し、映像を編集して、全員が自分の打席をまとめて振り返って見られるようにしているそうだ。こうした情報収集はどのチームも行っているが、分析手法が際立っているという。

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