2023.03.14

『サザエさん』の世界にはさまざまな年齢、肩書きの人が登場します。そのなかで、「大学生」だけが描かれません。いったい、なぜなのでしょうか?
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『サザエさん』には浪人生はいるのに「大学生」はいない?

アニメ『サザエさん』キービジュアル (C)長谷川町子美術館
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 アニメ『サザエさん』(原作:長谷川町子)には、大人も子供もさまざまなキャラが登場します。「サザエさん一家」だけ見ても、タラちゃんのような幼児、カツオ、ワカメのような小学生もいれば、サザエは20代女性、マスオも20代の若手社員。波平もフネもそれぞれ50代です。

 またお隣に住む小説家・伊佐坂先生の長女・浮江さんは女子高生で、よく出入りしている三河屋のサブちゃんは20歳くらいの青年です。準レギュラーには、年齢は定かではありませんが裏のおじいちゃん、おばあちゃんのようなさらなる高齢世代もおり、非常に年齢バランスのとれた布陣となっております。

 さて、そんななか少しだけ気になるのが……「大学生」の不在です。なぜか『サザエさん』の世界において、大学生は極めて珍しい存在なのです。もちろん『サザエさん』の昭和の世界観では、今の時代よりも大学進学率も低いはずなので、それが理由とも考えられますが、この大学生の不在はどこか「意図めいたもの」も感じざるを得ません。

 なぜなら「大学生」はいないのに、「浪人生」がレギュラー陣にふたりもいるのです。ひとりはご存知、伊佐坂家の長男・伊佐坂甚六。なぜか車を乗り回して、遊んでばかりいるかのように見える彼ですが、大学生ではなく浪人の身です。年齢はサブちゃんと同じく、20歳くらいという設定になっています。

 さらに彼と同年代に、「中島のお兄ちゃん」という絶妙なレアキャラがいます。登場頻度こそ少ないですが、公式サイトにもきちんと記載のある準レギュラーで、彼もまた甚六と同様に「浪人中」という設定なのです。

 ちなみに伊佐坂家のお隣ポジションは一度、1978年に画家の「浜さん一家」に交代しています。しかし、浜夫人が体調を崩したという理由で一家は静岡に引っ越し、伊佐坂家は1985年にふたたび、隣に「復帰」してくるのです。
そんな78年までの「初代伊佐坂家」の間、甚六は1973年2月25日放送「今日は…合格発表日」の回で、大学に合格するというエピソードが描かれたことがありました。ところがこの設定は、浜さん一家との交代とともに消失。再登場したときは、「浪人」に戻るのです。

 時間が「ループ」する『サザエさん』の世界において、設定の変更を余儀なくされる「大学合格」は至難の技でしょう。この世界のシステムに組み込まれている限り、甚六はもう二度と大学生になれないかもしれません。
こうして見ると仮に「大学生」がレギュラー入りする場合、それは甚六や中島の兄が合格するのでなく、新たな大学生キャラが登場する方が、はるかに現実的と言えるかもしれません。

 そろそろ春ですが、甚六の浪人という設定が「更新(?)」される時がやってきます。

(片野)