「誤解されながらずっとやってきたんだから」

 門田さんは誓ったという。打たないと、許してもらえない。自分の性格が変わってしまうほど頑固や意固地になろうとも、打って、打って、打ちまくって王と野村の背中に近づかない限り自分は負けてしまうのだ、と。

「周りの人にすればワケの分からない論理ですよ。でも自分はそう思い込んでいた。アホな悲しい、つらい時代もありましたよ。そりゃそうですよ、誤解されながらずっとやってきたんだから。社交性なんていらないと思ってた。体格にも恵まれていない自分がわずかでも隙を作ったり、一つでも崩してしまったら修正が利かないと思ってた。バカになれない。バカになれば楽になるのにね。だから人生疲れるし、しんどかった。嫁さんや子供にも嫌われるし、自分自身も嫌いになる。

 インタンビューしてくるマスコミの人にも悪かったと思うよ。もうちょっと柔らかく接してあげればよかったけど、それは出来なかった。でも、当時そうやっていたから567本のホームランを打つことが出来たと思っています。プロ野球はそれだけ微妙な、ほんのわずかな差が分かれ目になる世界なんですよ」
あの日見た“本当の門田博光”

 筆者は今年でプロ野球取材も22年目。数々の現役スターもしくはレジェンドと呼ばれる方々と会う機会に恵まれたが、門田さんの、唯一無二の深い言葉から、人生の不可思議さを教えてもらったように思う。

 インタビューの約束は1時間程度だったと記憶している。だけど、その時間をオーバーしても門田さんはいろいろなエピソードを披露し続けてくれた。なかには当時の暴露話もジョーク交じりに語ってくれた。

「せっかく来てくれたんやから、たくさん笑って福岡に帰ってもらわんと(笑)」

 取材が終わり、建物の外までお見送りしようとすると、「ここ(部屋)でええよ、雪が降っとるからな」と制された。取材を行ったのは6月。帰る間際までジョークを飛ばして、我々取材クルーを気遣い、現役時代には隠し続けていた“門田博光”を見せてくれていた。

文=田尻耕太郎