プレジデントオンライン12/01 15:00
https://president.jp/articles/-/64057

■歴史的勝利で活気づく「にわかファン」
「初戦ドイツに勝って、みなさんが勝手に鬼の期待をしていただけ、僕はがっかりしていない」

サッカー日本代表のコスタリカ惜敗後、ABEMAで解説をしていた元日本代表FW本田圭佑氏がそのように語ったことを受けて、ネットでは「にわかファン」の問題が注目を集めている。

これまでの大会でもたびたび指摘されてきたが、日本ではワールドカップの本戦が始まった途端、普段はまったくサッカー場にも行かず、テレビ観戦もしていない人々が「あれ?  そんなキャラだったっけ?」と周囲がドン引きするほど熱烈なサポーターに豹変(ひょうへん)するパターンが多い。

ビール片手に「打てっ!  なんでそこで打たねえんだ、あーあ、使えねえな、こいつは!」などと絶叫をして、勝手に鬼の期待をかけて、勢いあまって渋谷でハメを外して大騒ぎをしたりするのだ。

また、ベテランのサッカーファンによれば、そのような「にわかファン」にかぎって、試合で負けると「戦犯探し」に熱中しがちだという。今回も一部の選手が「お前のせいだ」「もう試合に出るな」など心ない誹謗(ひぼう)中傷を受けており、Twitterでは「戦犯探し」がトレンド入りをしたが、それもドイツ戦の歴史的勝利で「にわかファン」が急増したからかもしれない。

■「ナショナリズムが刺激されるから」は本当か
さて、そこで気になるのはなぜ日本ではワールドカップのたびに、雨後のタケノコのように「にわかファン」が湧いて出てくるのか。

よく言われるのは、「ナショナリズム」の影響だ。今回も試合結果を受けて、暴動が起きている国があることからもわかるように、サッカーワールドカップにはナショナリズムを刺激して、一部の群衆を攻撃的にする「効果」があることがわかっている。実際、過去にはW杯で対立した国同士が、本物の戦争へ発展したケースもあったほどだ。

つまり、アジア予選リーグではシラけているのに本戦に出られることになると急に「にわかファン」が増えるのは、日本人が強烈にナショナリズムを刺激されているからだというのだ。

ただ、個人的にはこの説はあまりピンとこない。「にわかファン」の中には確かに渋谷で大騒ぎをするような人たちもいるが、他国のように暴徒化するわけではない。ナショナリズムはヘイトクライムにつながりがちだが、ロシアのウクライナ侵攻時、在日ロシア人に嫌がらせをしたようなことを、ドイツ人やスペイン人に対してやったなんて話も聞かない。

では、ナショナリズムの影響ではないとしたら、なにが人々を「にわかファン」に駆り立てているのか。筆者は日本人の「強すぎる承認欲求」が影響しているのではないかと考えている。

■順位よりも「日本人スゴイ」がニュースに
普段はサッカーにそれほど興味のない日本人が、なぜ代表チームが「世界のひのき舞台」に立った途端、強烈なサッカー熱を発揮するのかというと、「日本」に勝ってほしいからだ。では、なぜ「日本」に勝ってほしいのかというと、世界に「日本ってすごいな」と認めてもらいたからではないのか。

実際、このような傾向は戦前からある。例えば、1935年2月、阪上安太郎という日本人競泳選手がオーストラリアのシドニーで水泳大会に出場した。阪上選手は風邪を引いて高熱を出していつもの実力が出せず結果は3着だったが、その結果よりもメディアが大きく取り上げたのは「阪上の大和魂 濠洲で絶賛」(読売新聞1935年2月9日)というエピソードだ。

「レース後阪上選手の病気を傳え聞いた濠洲の人々は日本人の責任感の強いのに絶賛を浴びせている」(同上)

なぜ試合内容よりも「日本人が褒められた」ということがニュースになっているのかというと読者、つまりは当時の日本人がこのような「日本人スゴイ」話が大好物で、新聞の売れ行きにも影響を与えるからだ。

これは87年を経た今回のワールドカップでも同様で、サポーターがゴミ拾いをしたとか、代表チームのロッカーがピカピカだったということが大きなニュースになっているのは、われわれ日本人は外国人に褒められる話が大好きだからだ。では、なぜ好きかというと、「強すぎる承認欲求」を満たしてくれるから、と考えればすべて辻褄が合う。

■世界と比較してわかる日本の若者の「異常」
「いい加減な話を憶測でしゃべるな!  ワールドカップで“にわかファン”が増えるのは、メディアでサッカーの魅力が繰り返し伝えられるからだろ」という感じで、不愉快になられる方も多いかもしれないが、実はこの説にはちゃんと根拠がある。

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