「金原ひとみの書き手の性に圧倒された『パリの砂漠、東京の蜃気楼』」詩人・文月悠光のおすすめの5冊〈AERA〉
11/13(日) 17:00 AERA dot.
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ふづき・ゆみ/1991年生まれ。10歳から詩を書きはじめる。10月31日に最新詩集『パラレルワールドのようなもの』(思潮社)が刊行(photo 山本春花)
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 読書の秋が到来。時にはゆっくりと時間を忘れて、読書に没頭してみてはいかがでしょう。そこで、読書を愛する人たちが選んだ「没入できる本」をお届け。詩人・文月悠光さんにおすすめの本を聞きました。2022年11月14日号の記事を紹介。

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 文章への没入感がすごかった一冊が、金原ひとみさんの初めてのエッセイ集『パリの砂漠、東京の蜃気楼(しんきろう)』です。金原さんは6年間パリで暮らし、帰国され、この本ではパリと東京両方が舞台になっています。日本では常にあらゆる人の目が気になっていた金原さんが、フランスでは誰の視線も気にならない生活を手に入れた。そのような解放感もありつつ、基本的に金原さんの鬱屈(うっくつ)した思いが書かれ、その鬱屈感を表現した文章が非常に美しい。苦しみながらも、自身の苦悩とまっすぐに向き合っており、読んでいて心が翻弄(ほんろう)されます。書かなければ希望が見えない、闇ばかりを覗(のぞ)いてしまう金原さんの書き手の性のようなものに触れ、理知的な筆致にも圧倒されました。

 書評などの仕事で本を読むことが増えた今、物語に没入するような現実逃避としての読書を楽しむことが少なくなりました。その中で、最近時間を忘れて読んだのが、『クイーンズ・ギャンビット』です。ネットフリックスのドラマがすごく面白くて、原作にも手を伸ばしました。1960年代のアメリカで、孤児院出身の天才少女ベスが、チェスの大会で男性たちを打ち負かしていきます。勝つために努力しながらも、途中でスランプもあり、友情物語もある。少年漫画の「ジャンプ」のようなストーリーですが、小さな少女という主人公の設定が、この物語にインパクトを与えています。心に抱える孤独感や恐怖、不安とどう闘い、克服するかが見どころでもある。ベスやベスの周りにいる女性が、不遇な環境に甘んじず努力していて、フェミニズム小説としても楽しめます。

『職業欄はエスパー』というのは、超能力者であることを職業にしている3人を、8年にわたって森達也さんが取材したノンフィクション。世間は彼らに「本物なのか、偽物なのか」という乱暴な二元論的な問いを向けます。森さんも超能力を信じるのか、信じないのか自身に繰り返し問いかけるようになる。この本が深く満足感をもたらすのは、信じる信じないという二元論をこえて、「私は彼らを信じる」という地平に向かっていくところ。世間から疑いの目を向けられてしまうような人とどう寄り添い、どう信じるかという話だとも思います。

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