7/10(日) 10:0 AERA dot.
https://news.yahoo.co.jp/articles/d18b25ec1b3b03e05fd76bebb4ebc6be44d9cb64?page=1
井浦新さん[撮影/写真映像部・加藤夏子 ヘアメイク/NEMOTO(HITOME) スタイリスト/上野健太郎(KEN OFFICE) 衣装協力/Post O'Alls(Post O'Alls)]
https://newsatcl-pctr.c.yimg.jp/t/amd-img/20220707-00000032-sasahi-000-1-view.jpg
父親を演じることで、純粋無垢な子ども時代を思い出した俳優・井浦新さん。芥川賞受賞作家・今村夏子さんのデビュー作を、森井勇佑監督が映画化した「こちらあみ子」では、子役の少女からいろんなことを学び、吸収したという。
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現場では、大人同士で集まっては、自分が子どもの頃どんな遊びをしていたか、いたずらをしたときに、父親はどう対応したかなど、昔話に花を咲かせた。それは、「自分たちの中にあるあみ子」を思い出す作業でもあったという。
「不思議なんですが、監督も役者もスタッフも、みんなが自分の子ども時代の話をしていました。自分の中にいる“あみ子”……わかりやすく言えば、自分がいちばん純粋無垢だった時期に、周りを心配させたり、困らせたりしたときのことを。最初は子どもの目線で話しているのに、『そういえば、家族はこんなふうに見守ってくれていたな』とか、今度は、大人のことも思い出してくるんです」
新さん自身も、自分の中にあみ子がいて、そのとき感じていたことや見えていたことを思い出した。おもしろい体験をして、それを父に語ったときに、父親はそれをどう受け止めたか。どんな言葉を返してくれたかが鮮明によみがえってきた。
「家の近くに空き地があって、その空き地の前を通ると、目の前にどこからか、ガラクタみたいなおもちゃが飛んでくる場所があったんです。そこで待っているとチャリーンって、足元に謎のキーホルダーが飛んできたり(笑)。草っぱらからボワンって何かが飛び出して、取りに行ってみると下敷きだったり。それを持って帰ると、ガラクタとはいえ、お金もないのに『これどうした?』って親は心配するんですよ。でもそれは、僕らの世界では普通に起きていることで……」
子どもにとっては当たり前に起きていることでも、明らかに新さんの父親は困惑した表情を浮かべていたらしい。
「嘘をついてないことは信じてあげたいと思う、当時の父親の複雑な顔が、脳裏に浮かんできました(笑)。でも、今でもそのときに一緒にいた友達と会うと、そのことを覚えている子と覚えてない子に分かれるんです。大人になっていくと、それが普通じゃなかったことがわかって、忘れていくんでしょうね。僕と、もう一人の友達は、今でも、『あれは何だったんだろうね』って謎の空き地に湧くガラクタの話で盛り上がります」
新さんが、この作品に惹かれたのは、「人間、子ども心を忘れてしまったらつまらない」という思いが根底にあったせいかもしれない。自分を表現していく職業についたこともあり、常識や理性、固定観念にとらわれることなく、常に頭を柔らかい状態にしておきたいと考えているのだ。
「大人になって、世の中の仕組みを理解していけばいくほど、脳が持つクリエーティブな部分が働かなくなるという研究があるんです。既存の理性や概念を超えて表現されたものは、大衆には理解されにくいかもしれないけれど、特定の誰かにとっては、人生を変えるほどの影響を与えたりもするわけで。僕が影響を受けてきたアーティストも、だいたいが子どものままの部分を持っている人たち。全員に共通しているのは、純粋さや無垢な感性です。僕自身も、常識や固定観念にとらわれないで、『あみ子』のような野生っぽい部分は、大事にしたいと思っています」
純粋無垢な部分を大事にしたいというのは、傍若無人に振る舞いたいという意味ではない。大人らしい振る舞いの中で優れた作品を発表している人も、周りには大勢いる。
「僕の尊敬する人生の大先輩方……例えば是枝裕和監督や若松孝二監督は、子ども時代に体験した感動や喜び、抱えた疑問を、ずっと突き詰めようとしているんだなってことは感じます。だから僕自身も、自分が心から好きだと、楽しいと思えることは、本気で向き合うようにしています」