社会人野球の三菱自動車岡崎(愛知県岡崎市)に今季、東大出身のオールドルーキーが加入した。井上慶秀内野手(25)。東大硬式野球部にあこれがれて3浪の末に赤門に進んだ経歴の持ち主は、社会人の舞台でも活躍を目指している。

社会人野球の練習に参加して約3カ月。今月のJABA日立市長杯では4番として4打席に立ったが快音は響かせられなかった。「いい場面で回ってきたので打ちたかった。大学の時と比べて球が強い。差し込まれないように意識してます」。ひた向きに自身の課題と向き合う姿にまじめな性格が垣間見える。

がっしりとした下半身から鋭い打球を飛ばす打力が武器。県内屈指の進学校、県長野高では1年秋から4番に座った。当時から東大硬式野球部があこがれの存在だったが、「在学中はまったく勉強していなかった」そうで現役では志望校に受からなかった。1浪、2浪の時には東大を目指すも不合格。2浪の末に一橋大へと進んだ。一度は夢をあきらめ、準硬式野球部に入って充実した大学生活を送っていた。

東大野球部への熱意が再燃したのは入学から半年がたった2017年10月。後に日本ハムに入団したエース・宮台を擁する東大が法大から15年ぶりに勝ち点を獲得したとのニュースが目に入った。「法政と言えば野球界のエリート。本当にすごい」。心を動かされ、11月から苦手な数学を中心に再び受験勉強を始めた。3度目の挑戦で東大に合格。「もっと早く受からせてほしかった」と苦笑い交じりに振り返る。

大学では1年春からベンチ入り。3年生までは一度もリーグ戦で白星を挙げられなかったが、「4番・一塁」のスタメンを獲得した4年春と秋にそれぞれ1勝を挙げた。「チームでどうやって束になって戦っていくか見直して結果が出た。単純に投手対打者というだけじゃないのが面白い」と野球の奥深さを実感した。

神宮の舞台に立つ夢をかなえても野球への情熱は冷めない。OBの縁を頼りに三菱自動車岡崎の練習会に参加。社会人でも野球を続けることを選択した。梶山義彦監督(51)は「凡退したら悔しい顔をしたり、野球に真摯(しんし)に取り組む選手。ボールにコンタクトする力もあって、十分戦力として考えている」と期待の新人を評価する。

8月で26歳になるオールドルーキーは自身の立ち位置も冷静に分析している。「もう年齢で言えば中堅。新人という気持ちはなくて、そんなに時間があるとは思ってない。新人だからと甘えないように結果を出していきたい」。5月1日からはベーブルース杯、同20日からは都市対抗野球東海地区2次予選が始まる。大学時代には多くは味わえなかった勝利の味。社会人でスタメンの座をつかみ、バットでチームを勝利に導いていく。

▼井上慶秀(いのうえ・けいしゅう)

1996年8月8日生まれ、長野県飯山市出身の25歳。176センチ、97キロ、右投げ右打ちの内野手。泉台小1年時に地元の少年野球クラブ「泉台ジュニア」で野球を始め、城北中では飯山シニアでキャッチャーとしてプレーした。県長野高では1年秋から一塁のレギュラーを獲得した。東大では4年春からスタメン出場し、「4番・一塁」を務めた。東京六大学のリーグ通算記録は打率2割2分1厘、0本塁打、11打点。

東京中日スポーツ2022年4月30日 05時00分
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