新庄剛志監督(50)の劇場≠ェ北の大地で幕を開けた。本拠地オープン戦初陣となった2日のヤクルト戦(札幌ドーム)は、わずか1安打で1―0の勝利。この試合はNHKが北海道ローカルながら地上波生中継に踏み切る、オープン戦では超異例の対応。

しかし、連日扱われるテレビの「フィーバー」ぶりに比べると、まだまだファンとの温度差がみられることは否めない。近年の低迷で離れてしまった日本ハムファンを呼び戻す任務も担うビッグボスは、アピールに成功し最高のスタートを切った。 (片岡将)

 ■1安打勝利にご満悦

1安打勝利の試合後、報道陣の前に姿を現した指揮官は、会心のゲームをテンション高めに振り返った。

「いやあ、守備がいいし、ピッチャーも良かったし。言うことないっしょ!」

6回まで無安打も、7回先頭の代打・近藤の四球を起点に2死三塁と初めて得点圏に走者を進めると、佐藤が二塁、中堅、右翼の間にポトリと落とす決勝の適時二塁打。日本ハムが放った安打はこの1本だけだった。

「きょうは楽しかった。じっとできない。じっとしたいけど、じっとできない。守りで勝つ。1安打で勝つ。1安打で勝つ試合を60試合くらいしたいな(笑)。もっと打てって? いや、でもこれは最高っすよ。向こうは8安打だからね」とビッグボス節を全開。生中継でぶざまな無安打負けを喫する瀬戸際から、狙い通りの守り勝つ野球をアピールできる展開にご満悦だった。

とはいえ、この日の観衆は上限の2万人には遠い5844人。新指揮官の札幌での船出を見届ける人数としてはいささか寂しい数字だったかもしれない。

新型コロナウイルスの蔓延防止措置と、先週は札幌圏内の鉄道がストップするほど大雪が降り積もって外出もままならない状況。昨年オープン戦初戦の4364人(3月3日の西武戦)に比べると増えたものの、週末5、6日の巨人戦もチケットに余裕がある。

試合前の球場グッズショップも大混雑とまではいかず、時間を置けば余裕を持って買い物ができた。売れ筋はもちろんビッグボス関連グッズだが、それ以外の選手グッズまでの波及効果はまだ顕著ではない。

球団関係者は「昨年までの低迷や、中田(現巨人)の同僚への暴力行為と対応のまずさで離れてしまったコアなファンは相当多い。新庄監督のおかげでメディアの露出は増えているが、実際に球場に足を運ぶファンが戻ってくるのには時間がかかる。今のフィーバーはあくまでテレビの中だけ」と冷静に分析する。

新庄監督は日本ハムが北海道に移転した2004年に選手として大リーグ、メッツから加入。「札幌ドームを満員にする」ことを目標に掲げた。

06年に日本一となり、自身が引退したときには、ファンから「今や新庄よりもファイターズの方が人気がある」と言われるまで、チームを北海道に根付かせている。

 ■計算ずくだった?終盤での輝星投入

ところが現在の日本ハムは、18年前の状態に逆戻り。これを理解しているからこそ、指揮官も地元ファンの呼び戻しに躍起だ。

「今日来ていたファンにこういう、ちょっとドキドキする試合を見せられて。こういうシーズンが続けばドンドンドンドン、ファイターズの試合は面白いよって。球場に観に行こうって。球場で見ないと、この面白さは分からないよっていうところは、続けていきたいですね」

北海道はシーズン中の地上波テレビ中継が多いが、オープン戦初戦となると異例のこと。しかも天下のNHKだ。

この日、全国ネットで午後7時30分から放送された「燃える闘魂最後の戦い<Aントニオ猪木 難病と戦う日々に密着」を、新庄ファイターズの地元初陣に差し替える熱の入れようだった。

テレビの露出で多数のライト層の興味を引いて球場に呼び込む。NHK地上波の中継は大きなチャンスだったが、新庄監督は同局で中継されていたことを知らなかった。

「おおっ。そうなの? えー、それ教えてくれてたら(試合を)伸ばしてたのに。でもうれしいっすね。今後もやってくれるんですかね? NHKうれしいっす、マジで」

試合時間は2時間33分。午後9時までの中継時間内にきっちり収まり、試合の最後まで放送された。試合を締めくくったのは、8回から登板した期待のスター候補、吉田輝星投手(21)。先発候補の吉田をあえて終盤に登板させて、番組内に収めたのが計算ずくだったとしたら、恐るべき演出力といえる。

夕刊フジ
https://news.yahoo.co.jp/articles/5b80bbfde3e71b0017ecbfcea376c1283b5e2ec8