当時私は向かうところ敵なしの、売り出し中のロットデュエリストで、
その日も三田本店で大豚Wの食券片手に、隣のロッターにデュエルを申し込む。
相手は、黒のスーツを品よく着込んだジイサン。
目が悪いのかサングラスをかけている。
デュエルの申し込みに、老人は驚いた風だったが二つ返事で承諾した。
どん、と私たちの前に大豚W全マシが置かれる。
老人相手でも、容赦はしない・・・デュエル開始!
しかしその老人はなかなかのスピードで、私に追いついてくる。
いや・・・向こうのほうが僅かに早い!
「・・・お若いの、ちと暴れすぎたようだな。
ワシは『協会』から派遣された『潰し屋』さ。
俺に負けたら三田界隈からは出て行ってもらうぜ。」
『協会』・・・だと!畜生、ハメられた!
しかし、このまま引き下がるわけには行かない。ならば――
どんぶりから立ち上る湯気が、老人の顔を覆ったその刹那――
秘技『ツバメ返し・一閃』
両手に持ったハシで行う通常のツバメ返しに対し、
一閃は一本のハシで野菜の山を丸ごと掬い上げ、カウンターの下に高速廃棄する。
――勝った!念のため、カウンター下の野菜を奥のほうへと靴で押しやる。
「ジイサン、悪いな。私の勝ちだ。
私は野菜を食うスピードには定評があってね。私は・・・」
しかし、老人は驚く風も無く、薄く笑いながら私のどんぶりを指差した。
馬鹿な・・・!
確かに今カウンターの下に捨てたはずの野菜が、
私のどんぶりに盛りなおされていた。
ありえない・・・いつの間に・・・?
何をされたのかさえ解らず、頭の中が真っ白になる。
床洗浄剤とゴキブリの死骸にまみれたそれを食い続けることは、
私にはできなかった。

「・・・約束だ。もう本店には顔を出すんじゃねえ。
池袋あたりからやり直すんだな。」
Wを完食した老人が、席を立つ。
悔し涙を浮かべる俺。
ふと老人がサングラスを外し、俺の目の前にコトリと置いた。
「腫れた目じゃあ、帰りの電車の中で恥ずかしいだろう。持っていきな。」
「さっきの技・・・あれは一体・・・」嗄れた喉で問いかける。
「絶技『ツバメ殺し』。おまえさんには使えねえよ。
ロットの声が聞こえないおまえさんにはな。
だが、お前にもロットの声が聞こえるようになれば・・・あるいは、な。」
去り行く老人の背中を見つめ、私は復讐を誓った。