日下部元美

毎日新聞 2021/12/28 07:00(最終更新 12/28 07:00)

 満18歳から満30歳までのすべての日本人男子に、性転換手術で最長2年間、女性になることを義務づけ、出産を奨励する――。11月に文庫版が発売された小説「徴産制」(新潮社、単行本は2018年)は、新型インフルエンザの流行で10代から20代の女性の85%が消えた2092年の日本を舞台に、人口政策で「産役男」になった男性5人の葛藤を描く。国の利益と国民の幸せは一致するのか、国の政策に女性の視点は本当に反映されているのかなど、重いテーマに鋭く切り込む内容だ。著者の田中兆子さん(57)は今の日本と少子化問題について何を思うのか。話を聞いた。【聞き手・日下部元美】

 ――「徴産制」を描いた背景を教えてください。

 ◆男性が女性に変身するという話はライトノベルや漫画ではよく扱われるテーマですが、作者はほぼ男性。登場人物が美少女に変身するという内容が大半です。変身してすてきになりたいのはわかりますが、それは実際に女性になりたいわけではなく、女性を消費するための変身願望でしかない。男性である自分に都合が良く、調子がいいなと思っていました。それに冷や水をぶっかけたかった。現実において、女になるということはどういうことかを男性に伝えたかったんです。

 13年に当時大阪市長だった橋下徹氏が在日米軍に風俗業の活用を促すような発言をし、問題になりました。男性の性衝動は制御できないものだと認めるような発言に私の周りの女性はみな怒っていました。ですが、普段は女性に理解のある男性たちにその話をしてもあまりピンときておらず、そのギャップに驚きました。いかに男性が女性の立場にたって想像するということをしていないかを知り、女性となった男性が男性の性衝動にどう対応させられるのかも書きたいと思いました。SF小説というよりも、非現実的な設定にすることで、現実社会のあらゆる問題を浮かび上がらせる狙いがありました。

 ただ、小説にはエンターテインメントの側面もあるので、硬い話もありながら、夫婦のあり方や家族の問題など多くの人が共有し共感することにも触れています。

 ――物語の中ではエリート官僚ハルトが国にとって模範的な男性になるために産役男としての役目を果たそうとしますが、出産には至りません。女性になったハルトは、これまで男性の視点では気付かなかったさまざまな差別を経験し、心の中にさまざまな葛藤が生まれます。このエピソードはどのようにして思いついたのでしょうか…

https://mainichi.jp/articles/20211227/k00/00m/030/001000c