森と野村、それぞれの「ドーハの悲劇」 

 日本シリーズはますます白熱する。前年同様、まれにみる熱戦が展開されている。

 しかし、翌日のスポーツ新聞は、後に「ドーハの悲劇」と呼ばれることになるサッカーワールドカップ・アジア最終予選が一面を占めることとなった。この年の5月にJリーグがスタートして以来、日本中に空前のサッカーブームが訪れていた。

 この夜、森はサッカー中継を見ていた。一夜明けて報道陣に対して前夜の感想を述べる。

「バスケットボールみたいに残り1分で追いつくスポーツもあるけど、サッカーはいちばん点が入りにくいスポーツ。それが、ああなるんだからなぁ……」

 改めて、「勝負は最後の最後までわからない」ということをかみしめていた。

 一方の野村もまた、サッカーの話題を口にした。

「まったく興味なし。イライラするわ。駆け引きとか、心理面とか、全然見えんからな。作戦はあるんだろうが、裏をかくことがない。まったく興味なし」

 前年に西武が日本一になった翌日の92年10月27日付スポーツ紙の一面はすべて「貴花田・宮沢りえ結婚」の活字が躍る両者の交際発覚報道だった。

 二年連続で日本シリーズ最終戦がスポーツ紙の一面から外れることは免れた。日本中にサッカーの興奮の余韻が残る中、戦いの舞台は再び西武球場にやってくる。

ナンバー
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