●投げ銭はタレント事務所の敵か味方か?

 難しさもありながら、マネジメント企業にとって投げ銭システムは、タレントとファンのコミュニケーションを促し、絆を深めることができるなど、新しい文化を作っていくことへの期待も大きいようです。そこで現在、ホリプロでは所属アーティストの活動の中に、ライブ配信を取り入れるためのルール作りを進めています。しかし、ここにもいくつか課題があると言います。

「難しいのは、利用するプラットフォームによって運営方法が異なる点です。たとえば、あるSNSでは、アカウントを持っている個人以外には投げ銭などの金額が一切開示されない一方、別のプラットフォームだとアカウントを持っている個人とは別に、所属会社への情報開示や配当の振り込みができる場合もあります。さらに、国内と海外のサービスでは運営ポリシーが異なるケースも多いので、一律のルールが作れずに時間がかかっています」(岡部氏)

 テクノロジー革新により生まれる新たなビジネスは、運用をしながら法的な契約を適正化することも珍しくありません。実際に「投げ銭」に関しては、視聴者から配信者への資金移動だと見なされた場合、資金決済法などによる規制が関係するという議論もあります。この点については現在のところ、プラットフォームが介入することで、視聴者から配信者に直接資金が移動しているとは見なされないという解釈がされています。

 岡部氏は、「収益配当のルールだけではなく、SNSや配信サイトを通じた活動では、ファンの方からのコメントがすべて可視化されてしまう点もマネジメント上の難しさとなります。たとえば、ちょっとした発言が炎上につながるとか、チャットに心ない言葉が書かれた時に、タレントが目にして傷ついてしまうといったリスクもあります」と語ります。

●投げ銭時代に、クリエイター事務所はどう変わるべきか?

 こうした時代において、マネジメント企業にはどのような力が求められるのでしょうか。「SNSなどによってファンの方との接触頻度が多くなったことや、直接メッセージのやり取りをすることも可能になっているため、熱量の高いファンが生まれやすい時代だと感じています。こうした時代では、所属タレントのスケジュール調整だけではなく、ファンとタレントとのエンゲージメントそのものをプロデュースしていく戦略眼や仕掛ける力が必要になると思います」(岡部氏)。

 YouTubeをはじめとした、アーティスト活動の場となるプラットフォームの登場により、事務所運営には新たな課題が立ちはだかっていますが、一方でこうしたプラットフォームを利用し、自社資源の活用に生かす事例も出てきているようです。

 岡部氏は、「会社がアーカイブとして蓄積してきた映像コンテンツを配信するYouTubeの『ホリプロ』公式チャンネルを2010年から運用しています。所属タレントや俳優の製作発表やメイキングといった、ファンの方にとって価値のある動画を好きな時に見られるため、再生数が高く収益化に成功しています。視聴者には、おすすめ動画も表示されて、知らなかった過去の映像を見ていただける機会も生まれています」と話します。