小学生でのヘディングのガイドライン

 日本サッカー協会が2021年5月に発表したガイドラインでは、育成世代(U-15まで)でのヘディングについて、「禁止」するのではなく「正しく恐れ」ることを重視するとの内容になっている。

 小学2年生までは風船などを使い、3〜4年生ではキャッチボールなどの練習を重視し、5〜6年生では4号球でのヘディングを許すものの回数制限を付けた。

 諸外国の例を見ると、米国では11歳以下で練習でも試合でも禁止(2016年から)、英国イングランドでは11歳以下で練習では禁止(2020年から)としている。

 ヘディング規制に弾みを付けたのは、2019年スコットランドのグラスゴー大学の神経病理学者ウィリアム・スチュワート博士らによって発表された研究だ(*1)。

 元プロサッカー選手が引退後に神経難病を多く発症していることを示す内容だった。

認知症、ALS、パーキンソン病
 英国ではNHSによる国営医療の制度であることを利用して、その電子カルテの調査で元プロサッカー選手7676名とその約3倍の一般人を比較して、死亡診断書から病名を確認した調査である。

 さすがスポーツ選手で、身体的には健康なのか全般的にみれば一般人よりも死亡率は低い(15.4%対16.4%)。

 だがよく見ると、70歳までは一般人よりも死亡率が低いのだが、それより高齢になると一般人よりも死亡率が高くなってしまう。

 ただし、繰り返すが、すべてを平均しての死亡率は元プロ選手が低いのだから、これの意味は元プロ選手は一般人よりも長生きするということだ。

 問題はその中身だ。

 元プロ選手では、一般人に比べて虚血性心疾患や肺がんによる死亡は少ない。

 これは、身体を鍛えたり、健康に注意したりしているので、肥満や喫煙が少ないためかも知れない。

 ところが、高齢になってから発症する神経難病は元プロ選手のほうに多いとのエビデンスが見つかった。

 認知症全般では3.9倍(アルツハイマー病だと5.1倍)、全身の筋肉が衰える難病(ALSを含む運動ニューロン病)は4.3倍、パーキンソン病は2倍となっている。

 この中でも、とくにヘディングとの因果関係が危惧されているのが認知症(アルツハイマー病)である。

コンタクトスポーツと認知症

 格闘技やアメフトやラグビーのように競技者間で身体接触の程度が多いスポーツはコンタクトスポーツと呼ばれ、どうしても負傷が避けられない。

 なかでも、頭部外傷(脳しんとうなど)を繰り返すスポーツには、後遺症として認知症が生じることが懸念されていた。

 格闘技のなかでもボクシングでは、脳しんとう(ノックアウト)を繰り返すボクシングスタイルの選手が、引退後に後遺症として認知症になることは、100年前の20世紀初頭から「パンチドランカー症候群」として知られていた。

 だが、その後に、動物実験によって、意識消失を起こすほどのひどい脳しんとうではなくても、比較的軽い頭部への衝撃が何度も反復されることによって、脳が傷つけられ、認知症などの後遺症が生じることが分かってきた。

 とくにコンタクトスポーツの中でこのリスクが議論になったのは、アメフトだった。

 ヘルメットや防具で保護しているのだから安全と思われていたのだが、2000年代になって安全とはいえないと判明したからだ。

 脳しんとうのように強い衝撃で急性になる病気ではなく、繰り返される軽度の衝撃による一種の後遺症であるため「慢性外傷性脳症」と名付けられた。

 アメフトのスタープレーヤーが引退後に若年性アルツハイマー病となる悲惨な事例が明らかになり、2011年には選手たち6000名が全米フットボールリーグ(NFL)を相手に裁判を起こしている(後に和解)。

 なお、この問題は、アメフトの後遺症で認知症になることを発見した医師ベネット・オマルをウィル・スミスが演じて映画化されている(『コンカッション』)。

 そして、いまサッカーでのヘディングでも同様のリスクが問題視されている。

全文はソース元で
https://news.yahoo.co.jp/articles/3175a54b5521d1ee1bb1c79e23a861b0fd276498