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89歳の作家 辻真先の現役力
生まれつき「スローモーション」だけど持続力はある方です
公開日:2021/05/25 06:00 更新日:2021/05/25 06:00

 人生100年時代。シニア世代には、輝く星のような存在だろう。米寿で発表したミステリー小説「たかが殺人じゃないか」が「このミステリーがすごい!」など3冠を受賞。その後も精力的に新作執筆にあたる作家、辻真先氏。その現役力の秘密を探ろうと仕事場のある熱海をたずねた。

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 先日89回目の誕生日を迎えました。全く中途半端な年齢です。健康だ長寿だと祝辞をいただき、ありがたいけれど、本音を言えばおもしろくもおかしくもなく、めでたいのかどうかも分かりません。

座骨神経痛に前立腺肥大、喉の通りも悪けりゃ耳も遠くなるばかりだし、目もすぐに疲れてかすむ。内科に整形外科、皮膚科に泌尿器科、眼科に歯科の病院通い。朝8錠、夕6錠、寝る前2錠と計16錠もの薬を飲まなければならない。脊柱管狭窄症のときは新宿駅南口から歩いて5〜6分のところまで行くのも大変で、自販機にもたれて悶絶寸前でした。

 ――お元気のように見えてやはり年齢からくる体のつらさはあるようだ。

 ついのすみかであろう熱海のシニアマンションは高台にあり、山の緑と海と空の青の中、新幹線がもの凄い速さで白い線を地上に引くのが部屋から見えます。天然温泉の大浴場もありウグイスの鳴き声で目覚めるこの季節はみずみずしいけれど、ここにも社会があり、生きている限り、あれやこれやに追われてしまう。

 先日は1年遅れで日本ミステリー文学大賞の授賞式があり、東京まで往復ハイヤーの豪華版で出席したのだけれど、道中のトイレ探しに気もそぞろ。およそ15分おきの頻尿によって、楽しみにしていた映画「シン・エヴァンゲリオン」を見に劇場へ行くのも断念した。おいそれとドライブも観劇も楽しめない始末でした。

 ――そんな体調でよく、これだけの仕事ができますね。

 ぼくは生まれつき鈍かった。なにをするのも、のろかったらしい。小学校の通知表に親権者、戦前のためまだPTAもない時代、子どもについて実感を書く欄があって、毎回母親は「スローモーション」と書きこんでいた。体操の時間に走らされると、号砲一発ののち、左右の生徒が駆けだしたのを確認してから、おもむろにスタートしたものです。ここでも毎日のように梅園横の急坂を往来する居住者がいたりしますけど、とてもまねできない。

 でも、だから運動はできないと諦めてもいません。30年前にかかりつけの医師から、両腕を振り下ろす単純な体操を1日200回反復するよう言われ、今は170回に減らしましたが、3日に2度の割合で続けています。少ない運動量でも継続が大切と思っているからです。80年以上マンガを読み続けているのと同じ気分ですね。
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