2021.2.27

 【丸山ゴンザレスの地球の果ての歩き方】

 これまでに世界中の危険地帯を旅してきたが、現在のところコロナ禍の影響で国外に行くことができない。そこで唯一リアルタイムで取材できているYou Tube「丸山ゴンザレスの裏社会ジャーニー」を軸にさまざまなテーマを紹介していきたい。


 今回のテーマは「家田荘子」である。

 家田さんといえば女性たちへのインタビュー取材によるノンフィクション作家のイメージが強い。特に彼女の代表作ともいえる『極道の妻たち』はベストセラーとなり、映画化された。

 今回の裏社会ジャーニーでは、そんな名作の裏側について迫らせてもらった。実際にお会いした家田さんは、小柄で目鼻立ちのくっきりとした美人で、今も昔もモテるだろうなと、率直に思った。

 下世話な第一印象だったが、そんなものは取材体験を聞いていくと、いかに失礼だったのか思い知らされた。

 まず、覚悟というか、肝が据わっている。取材はコネのない状態で出版社のサポートを受けることもなかった。それどころか、連載に入るまでに2年をかけ、収入が激減したため、私財を売り払うことになったという。

 取材に没入するあまり自分の生活が立ち行かなくなるという経験は、ノンフィクション作家ならば経験している人が多いかもしれない。私も例外ではない。

 取材という名の飲み会が重なり、原稿料が釣り合わないとか、原稿を編集部に却下されて経費が落ちないといったことを経験した。

 家田さんは、細いつてをギリギリでたどりながら、どうにか極道の奥さんにアクセスしたが、そこからさらに踏み込むのに時間がかかったと、当時の弱気な部分も正直に教えてくれた。

 共通する部分もあるが、取材がうまくいかなかったことを明け透けに話すあたりは先駆者としてのすごみと自信のようなものも感じた。そして、もう1個気になったのは、やはり視点の置き方だろう。

 普通にルポするならばヤクザに密着すればいいのに、その奥さんから見るという、それまでになかった切り取り方をした。既存の分野であろうと、視点の置きどころが秀逸であれば、センセーショナルな作品になるのだということを家田さんと話すことで再確認することができたような気がする。

 裏社会とは、その名の通り裏の社会である。そこを切り取る視点は限定的なものではない。むしろ主戦場とする作家の数が表の社会に比べて少ないのだから、チャンスにあふれた場所なのだ。そんなことを思い知らされた。

https://www.zakzak.co.jp/smp/soc/news/210227/dom2102270004-s1.html

■丸山ゴンザレス(まるやま・ごんざれす) 自称「考古学者崩れ」のジャーナリスト。海外の危険地帯から裏社会まで体当たり取材を繰り返す。『世界の危険思想 悪い奴らの頭の中』(光文社新書)『世界の混沌を歩く ダークツーリスト』(講談社)など著書多数。