「現在、話題になっている『セ・パ間格差』について、DH制との因果関係は当然あると思いますね。パ・リーグの場合は投手が打席に立つ必要がない。じゃあ、その代わりに誰が打席に立つのかといえば、強打の外国人選手が入ることが多い。セ・リーグは打撃が劣る投手がバッターボックスに立ち、一方のパ・リーグは打撃に勝る強打者がひとり増える。それは攻撃力の大幅アップにつながりますよね」

 さらに、ラミレス氏は監督経験者ならではの指摘をする。

「セ・リーグの場合は、選手の起用人数が多くなりがちなんです。たとえば、試合中盤になって、チャンスの場面で先発投手に打席が回ります。ここで代打を起用し、そのあとに守備位置を変更しようとしたら、代打を使うだけでなく、別の選手を守備に起用するダブルスイッチが必要になって、一気に多くの選手を使うことになります」

 当然、DH制を採用しているパ・リーグでは、この問題に頭を悩ませる必要はない。

「セ・リーグの場合、試合終盤になると選手が足りなくなることがしばしばあります(笑)。でも、パ・リーグは最後の最後まで選手を温存できるから、ここぞという大事な場面で足のスペシャリストを代走に起用したり、守備の名手を守備固めに起用したりしやすくなる。この点もセ・リーグとパ・リーグの違いになっていると思います」

 DH制の有無によって、確実にセ・リーグとパ・リーグに違いが生じた。しかし、ラミレス氏は両リーグ間の格差の存在を認めた上で、「セ・リーグはDH制を採用する必要はない」と言い切る。

「ピッチャーが打席に立つことによって、重要な場面で代打を送るのか、バントをさせるのかを判断しなければならず、代打起用の際にはその次の守備をどうするのかも考えなければいけません。複雑な戦略は野球の見所です。だから、私はセ・リーグのDH制導入は賛成ではありません。リーグ間で、それぞれ違うシステムを採用している現状のままのほうが、さまざまな野球を楽しめると考えるからです」

 セ・リーグとパ・リーグが直接対戦する交流戦や日本シリーズにおいて、「セ・リーグの本拠地ではDH制を採用せず、パ・リーグの本拠地ではDH制を採用すれば、不公平にならずに、それぞれのスタイルを楽しめる」とラミレス氏は言う。そして、それこそ、野球の多様性、さまざまな面白さの表現となると考えているのだ。

【セ・リーグ各球団のドラフト戦略の見直しを】

 ここまで聞いてきたように、ラミレス氏の中では「両リーグ間の格差は存在する」という前提があり、「パ・リーグはセ・リーグの5年先を進んでいる」と考えている。さらに、「このままではセ・リーグはパ・リーグに追いつけない」というのがラミレス氏の持論だ。では、今後、どうすれば両リーグ間の格差は縮まるのか? そんな問いを投げかけると、まずは「ドラフト指名」について、ラミレス氏は語り始めた。

「私が現役だった頃と比べても、パ・リーグのパワー対パワーの野球は年々、進化しています。これまで何度も言ったように、その根本にあるのは、パ・リーグには150キロを超えるボールを投げられる投手が多いことにあります。これは偶然なのかどうかはわからないけど、スーパースターと呼ばれる好投手たちは、なぜかパ・リーグに多い。これは、ドラフト戦略も関係している問題だと思います」

 ラミレス氏は、このように指摘した上で、さらに続ける。

「セ・リーグ各球団も、積極的にアマチュアのスーパースターたちを指名していく必要があると思います。昨年ロッテに入った佐々木朗希投手、今年楽天に入った早川隆久投手など、これからの活躍が期待される投手たちが、やはりパ・リーグに集まっています。すぐに結果が出る解決法ではないけれど、長い目で見たドラフト戦略の見直しも、セ・リーグの各球団には求められていると思いますね」

「セ・リーグ各チームのキャッチャーのような、アウトサイド一辺倒の配球も見直す必要があると思います。スピードボールを投げられる投手がいないから、内角のサインを出さずに外角でかわすピッチングばかりしていると、投手のレベルも、打者のレベルも上がらないし、交流戦ではパ・リーグの各打者に狙い打ちされます。初めは勇気がいるかもしれないけれど、内角をきちんと攻める。そんな配球も必要だと私は思います」

https://sportiva.shueisha.co.jp/clm/baseball/npb/2021/02/21/dh_1/