今夏のオリンピック・パラリンピック開催に対する国民の反対は、ついに世論調査で8割に達した。緊急事態宣言は延長必至、新規感染者が少し減っても重症者と死者は増え続けている現状、すでに始まった医療崩壊、そして肝心要のワクチン接種は、医療従事者向けでさえ1か月後に始まる予定で、高齢者や基礎疾患のある「優先度2」の人たちへの接種は4月にずれ込む見込み――これでなお開催を強硬に主張する政府や組織委員会、IOCに対する「不支持率」だとすれば、8割は妥当な数字に思える。

まさかの「五輪に怒る国民世論」に青ざめているのがスポンサー企業だ。『週刊ポスト』(2月1日発売号)では、五輪中止になった場合、スポンサー企業がどんな損害を受けるかを詳しく報じているが、逆に強行開催されたとすれば、国民に不人気の大イベントを後援したとして批判を受けるおそれもある。実際に大会がコロナの「第4波」を招く危険も十分にある。行くも地獄、戻るも地獄のスポンサー企業のジレンマについて、経済ジャーナリストの福田俊之氏が分析した。

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 これだけ五輪開催に批判的な声が大きいなかで、スポンサー企業は悩ましい立場にいる。ある会社の幹部は、はっきりとは言わないものの、企業イメージが悪くなるくらいなら、出資金が無駄になっても中止してほしいというのが本音のようだった。今の時代、スポンサー企業に対しても、ネット上などで批判が殺到することはよくある。五輪を支えて企業イメージが悪くなることは絶対に避けたいのは当然だ。

 例えばワールドワイドスポンサーになっているトヨタ。今回の大会では、スポンサーは1業種1社という枠を取り払ったので、様々な業界でライバル企業が同時にスポンサーになっているが、自動車業界については、トヨタがワールドワイドスポンサーになっているため、スポンサーは1社のみ。報道ベースの数字だが、トヨタは2015年から2024年まで10年間のスポンサー契約をIOCと交わし、その契約額は2000億円という。本来はそれだけの宣伝効果があると見込んでいたのだろうが、ここまで五輪のイメージが悪くなってしまうと期待したような効果は望めないだろう。

トヨタは五輪で、同社初となる自動運転技術を使ったモビリティサービス専用EVを10数台提供してPRする計画だった。選手村の巡回バスや大会関係者の移動などに使って、技術力を披露する絶好の機会だったわけだが、五輪そのものが歓迎されていなければ、逆にせっかくの技術にも悪いイメージがついてしまう。菅総理がいうように、「コロナに打ち勝った証」でなければ五輪開催は難しいという考え方もあるだろう。

 五輪への出資は、企業戦略としては社会貢献の一環だから、トヨタに限らず中止によって直接的な利益や損害を受けるということはあまりない。イメージアップを狙いたいとか、政府との関係を良好に保ちたいといった思惑から出資しているわけだから、開催して批判されるくらいなら中止してもらいたいだろう。

 もちろん、五輪での警備を予定していたセコムとか、人材派遣のパソナあたりは実害が出るでしょう。大会の取りまとめ役の電通は大きな損失が出るはずだから、本社ビル売却を決めたのもわかります。しかし、そうした実害を受ける企業はごく一部。

 それでもスポンサーから中止の声が全く聞かれないのは、大手新聞社も雁首揃えてスポンサーに名を連ねているからだろう(朝日、読売、毎日、日経がオフィシャルパートナー)。各紙を見ていても、はっきりと五輪中止すべしと書いているところはまだない。組織委員会の森喜朗・会長がうまく大手マスコミを仲間に引き込んだということなのだろう。

2/2(火) 7:05
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20210202-00000003-pseven-soci