第93回選抜高校野球大会(3月19日開幕、阪神甲子園球場)の出場32校が29日に発表される。21世紀枠は4校。昨秋の北信越大会に出場した富山北部・水橋は地区候補9校に選ばれ、連合チームとして初の甲子園出場をめざす。困難な環境のもと、17人の選手たちは合同練習を通して絆を深めている。
 雪で真っ白に覆われたグラウンドのとなり、体育館下の小さな広場から大きな声と球音が聞こえてきた。「いまのはヒットだ」「いや、アウトだな」。白い息を吐きながら笑いあう2人の着ているユニホームは違う。胸に筆記体で「Hokubu」と書かれた選手が投げた球を、漢字で「水橋」と入った選手が打ち返していた。
 1月16日、富山市の学校は大雪でしばらく休校になったため、9日ぶりの合同練習は熱気に包まれた。「試合だと思って振れよ。外は使えないけど、できることをしっかりやれ」。長靴姿で指導する連合チームの笹野祐輔監督(31)の声が響いた。
 選手は富山北部の2年生2人、1年生13人と水橋の2年生が2人。合同練習は平日の3日間と土、日で、水橋の2人は授業が終わると、部長に車で20分かけて富山北部に送ってもらう。アップの途中に合流し、それ以外の日は2人っきりで体を動かす。水橋の中川凌輔外野手(2年)は「もう慣れました。みんなで練習する方が何倍も楽しい」。
 最初は気まずかった。昨年8月6日。両校の選手が初めて顔を合わせたのは、県営球場で行われた高朋との練習試合だった。練習前に笹野監督が2人を紹介したが、誰からも反応がない。「緊張して、なんて声をかけていいのかわからなかった」。連合チームの主将で富山北部の清水周道一塁手(2年)は振り返る。水橋の2人は見よう見まねで練習に加わった。
 ただ、そこは思春期の高校生。「あの一言で距離が縮まった」と中川は笑う。数日後、富山北部の石崎幹卓外野手(2年)に聞かれた。「水橋には、かわいい子おるん?」。「うん。そっちは?」。恋愛の話で盛り上がった。話題は趣味や勉強、監督の指導や他の選手の性格へと移っていった。
 もう一人の水橋の選手、長田稜成外野手(2年)は昨夏の独自大会後に3年生と一緒に引退するつもりだった。引っ込み思案の性格で、「チームに溶け込めるか不安だった」からだ。そんな心配はすぐに吹き飛んだ。
 初日の練習試合。7番左翼で出場し、2打席目に安打を放った。塁上からベンチを見ると、高校生活で初めての「後輩」、富山北部の1年生たちが手をたたいて喜んでくれた。「自分でもやっていけるかも」。照れながら、拳を握って応えてみせた。
 水橋の2人は控えだが、野球に懸命に取り組む姿は1年生主体のチームに刺激を与えた。
 富山北部は1969年春、夏と甲子園に出場したが、近年は2015年から夏の富山大会で5年連続初戦敗退。ただ、力のある1年生が入った昨夏の県独自大会は8強に進んだ。そのチームが秋の県大会前に「水橋の名も背負って戦おう」と誓い合い、快進撃が始まった。
 緩急を使った投球が持ち味の背番号11の右腕、酒井友暉投手(1年)が成長。野手陣も奮起し、準々決勝の未来富山戦は3点を追う九回に5連打して最後は押し出し四球でサヨナラ勝ち。北信越大会は敦賀気比(福井)に1回戦で0―5で敗れたが、善戦した。
 笹野監督は言う。「富山北部の単独チームではこんな結果にはならなかった。選手のあきらめない姿勢に驚かされた」。
 この冬、1メートルを超える大雪に見舞われた。グラウンドが使えない分、工夫を凝らす。校舎の階段の上り下りや体育館での鬼ごっこ、部室周りの雪かきも練習の一環だ。
 遠い存在だった甲子園が現実味を帯び始めた。父和久さん、4歳上の兄大輔さんも水橋の野球部だった中川は「僕が卒業したら廃校になる。最後に、夢みたい」。清水は「ユニホームも通う学校も違うけれど、僕らはワンチーム。結束力はどこにも負けない」とうなずく。
 出場が決まれば、29日に大会本部から学校に連絡が届く。その日は富山北部の校長室に水橋の校長が出向き、2人で受話器の前へ。春の訪れを待っている。(山口裕起)
 富山北部と水橋 ともに富山湾の近くにあり、富山北部は1916年、水橋は1983年にそれぞれ創立。少子化による県立高の再編に伴い、2021年度末に2校は統合する。選手は富山北部と水橋の2年生が2人ずつ、すでに両校が統合して20年春に開校した(新)富山北部の1年生13人の計17人で、昨年8月に3校連合チームが結成された。
 高校野球の連合チーム 統廃合を控えて出場できなくなった学校に対する救済措置で、1997年から始まった。2012年夏からは、部員不足(8人以下)の学校同士による連合チームも認められ、その数は年々増加傾向にある。19年夏は地方大会に出場した全国3730チームのうち、部員不足の連合チームは過去最多の86(234校)だった。

 朝日
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