プレジデントオンライン2021/01/01 8:30
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ウラ箱根駅伝、走らざる者たちの涙の物語
箱根駅伝に出場できるのは往路5人、復路5人の10人だけである。

選抜されるために、その10人はこれまでいくつもの“関門”をクリアしてきたが、クリアできなかった者も多い。主役といえる出走ランナーたちの陰で、何人もの選手が悔し涙を流している。

筆者は、かつて東京農業大学の1年生だったときにたまたま箱根駅伝の10区に出場できた。その際、最上級生の“涙”を目撃した。当時4年生の先輩Aは練習で先頭を引っぱることも多く、実力的にはエントリーできる14人(現在は16人)に入っていた。

しかし、当時の監督は経験を積ませるために1年生を4人もエントリー。その先輩は最後のチャンスを逃した。エントリー選手発表の翌朝、その先輩は練習に現れなかった。そんなことはこれまで一度もなかったが、誰もその理由を聞かなかった。

長距離部員40〜70人から選抜される10人、残りは夢の舞台に立てない
通常、箱根駅伝を走る10人に選ばれるには、長距離部員40〜70人のなかから激しい競争を勝ち抜かなければならない。人数だけを考えれば、さほど競争率が高いようには見えないが、部員全体のレベルが高い。3〜4年連続で出場する主力選手もいるため、各学年十数人のうち、箱根を経験できるのは3〜5人ほどだ。全国から集まった精鋭たちのうち、半数以上は夢の舞台に立つことができないまま、大学を卒業することになる。

箱根駅伝の常連校には毎年15〜20人前後の1年生が入部する。そのうち10人前後がスポーツ推薦だ。高校時代の恩師や両親に期待されて入学してきたエリートといえるだろう。一方、スポーツ推薦以外で入部する選手もいる。筆者もいわゆる一般組だが、最初の“関門”は入部できるかどうかだ。

たとえば東海大は5000mで15分00秒以内が基準になっている。仮入部は認められるものの、一定基準をクリアするまでは準部員という大学もある。いずれにしても実力が“規定”に満たない選手は、早々に退部する運命にあるのだ。

上下関係の厳しさ、練習についていけないなどの理由で1年生はどんどん減っていく。以前取材した大学では、1年時の春には20人を超える長距離部員がいたが、4年生の箱根前には6人(+マネージャー転向2人)になっていたということもある。

加えて、2年時のどこかのタイミングで、選手のなかからマネージャーを1人出すという大学も多い。以前取材した名門校の主務を務めていたあるBもそうやって選ばれた。1年時の箱根が終わった後に、部員3人を呼び出したコーチは言った。

「このなかからマネージャーを出すから」

レギュラー争いだけでなく、チーム内の下位グループにも“見えないバトル”があるのだ。半年後の学年ミーティングでマネージャーに選ばれたBはその夜のことが忘れられないと話していた。

「僕は泣き虫なんですけど、その場では泣きませんでした。でも、ミーティングが終わって、ひとり暮らしの部屋に帰ってから泣きましたね。ひたすらひとりで泣きました。でも、精神的にも参っていたので、『やっと解放される』という気持ちもあったんです」

マネージャーを務める男子部員の大半は元選手だ。箱根駅伝の出場を夢みて入部するが、チームのために“裏方”にまわる。「自分も走りたい」という気持ちを押し殺して。そうやって、強豪校には独自のチーム構成が確立されていくのだ。

選手登録枠の「16人」に入れても出走枠の「10人」に選ばれない
選手として残った者たちも箱根駅伝に出場するには、“2つの関門”をクリアしないといけない。最初は選手登録ができる「16人」のなかに入ること、次は出走する「10人」に選ばれることだ。

チームエントリーは毎年12月10日に行われるが、ここで外れると、その後にどんなに調子を上げても本番を走ることはできない。メンバー入りが微妙な選手たちにとって“運命の日”といえる。

しかし、その前から“メンバー選考”は始まっている。たとえば、日々のトレーニングは実力に応じて、A、B、C、Dのように各校3〜5つぐらいのグループに分けて行われる。夏合宿ではAチーム20人とその他という具合に2チームに分けて行うケースが多い。そうなると、正月の本番の数カ月前にあたる夏合宿から選手たちは「16人」を強く意識する。

チームエントリーは速い順に16人を選ぶのが普通の考え方かもしれないが、実際は違う。箱根駅伝では“山”があるため、山登りの5区と山下りの6区の候補を厚めに選ぶなど、特徴の異なる選手を組み合わせて選出するのだ。

(長文の為以下リンク先で)