11月24日に厚生労働省が発表した10月の自殺者数(暫定値)は2158人、前年同月比40.2%増でした。9月は前年同月比11.3%増、10月は一気に急増しています。前年比で減少傾向が続いていた自殺者数は7月以降増加に転じ、特に女性の増加が顕著に。背景としてコロナ禍による女性非正規雇用者の大量解雇や、育児介護負担、DV被害などが指摘されています。

 いのち支える自殺対策推進センターでは、今回の急増には、著名人の自殺報道が影響していると分析しています。報道が自殺を誘引する働きをウェルテル効果、逆に抑制する働きをパパゲーノ効果と言います。今年7月と9月、著名俳優の自殺報道後に、若者や女性を中心に自殺者数に有意の増加が見られました。同センターではメディア各社にWHOの報道ガイドラインに従うよう繰り返し要請していますが、配慮のない報道は後を絶ちません。同様のことは、2011年の女性アイドルの自殺後にも起きています。

 自殺はさまざまな要因によって追い込まれた末の死であり、要因を分析し、生きる選択肢を増やす社会づくりが不可欠です。ここ20年で日本では法律や制度面での対策が進み、自殺者数は減り続けていますが、報道に関してはまだ大きく改善されてはいません。

 自殺の様子を詳細に伝え、繰り返す報道はウェルテル効果を引き起こします。記事の末尾に相談窓口を掲載する形だけの対処では不十分です。

「何が起きたか」を報じるのがメディアの使命ですが、自殺に関しては「何が起きないようにするか」もまた、メディアの重要な役割です。どうか「人が死なない報道」を。死を思いとどまり危機を乗り越えた人の話には、パパゲーノ効果があると言います。ギリギリの気持ちでいる人に、何を伝えるか。リスクを抱えた人が増えている今、発信者の自覚が必要です。

2020.12.5 11:30 AERA
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小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。『仕事と子育てが大変すぎてリアルに泣いているママたちへ!』(日経BP社)が発売中