この夏、黒人差別に抗議するメッセージを発信し続けた大坂なおみに対し、日本のスポンサー企業は動揺した。大坂の活躍と言動は、政治的発言をしない「従順な広告塔」を良しとする日本の広告業界に変化をもたらすのか、英経済紙が考察する。

アスリートの政治的発言に対する姿勢の変化
8月、全米オープンのコートに現れた大坂なおみは、世界最高年収を手にしたアスリートらしく、ナイキ、ヨネックス、ANA、日清食品といったスポンサーのブランドネームを背負っていた。日清食品は、大坂がトップ入りする前から彼女を支援している。

彼女のファンである、横浜在住のタグチマユミは、大坂のマスクに印字された「ブレオナ・テイラー」の文字を見たとき、それがスポンサーの1社だと考えた――初めて目にする他国のファッションブランドだと。

しかし、グーグルで検索してみると、現実は違った。それは、ケンタッキー州ルイビルの自宅で殺害された黒人女性の名前で、BLM運動に火をつけた、不当な暴力による犠牲者のひとりだった。

大坂は一連の行動を通じ、東洋にも西洋にも強く抗議ができるスーパーアスリートであることを示し、前人未踏の地位に立った。元々そのマスクを最大の舞台で着用した目的は、黒人への暴力に対する意識を広めることだったが、結果的にスポンサー、スポーツ業界、広告代理店などに非常に大きな影響をもたらした。

大坂の行動によって、数十億ドル規模のスポーツマーケティング産業もまた、広告にどこまで政治的な意味合いを持たせてよいか、線引きを迫られることとなったのだ。

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有名人に頼る日本の広告
日本の広告業界に詳しい大阪市立大学教授の石田佐恵子は、習慣的な消費行動や有名人に頼っている広告業界は、慣習に縛られていると同時に、情勢の変化に弱いと指摘する。

日本ではテレビ広告の約80パーセントが何らかの有名人を起用している――世界トップの数値だ。日本の広告宣伝費が削減されると戦略が変わり、外国のビックスターを起用することは少なくなったが、その分、国内の有名人が重宝されるようになった。おもに大手芸能事務所に所属するミュージシャンや俳優が選ばれるが、スポーツ選手の人気も上昇している。

慣行は協定によって守られ、広告主のスポンサーはお気に入りの有名人に対して慎み深い行動を厳しく求め、有名人もたいていそれを受け入れてきた。

しかし、大坂なおみのスポンサーは、大坂の抗議活動に関し、私見はどうであろうと、スポンサーを降りなかった。それは、政治的な立場を明確にしても、広告塔でいるのは可能だということを明らかにした。

「正直言って、アメリカのマーケットでは、彼女の行動に対してはもっと多くの支持と善意が寄せられました」

そう語るのは、大坂選手の代理人をつとめる、IMGテニスの上級副社長スチュアート・デゥグイットだ。

大坂の日本のスポンサー企業で働く人々は、個人的には彼女の行動を支持することが多いという。だが、そうしたスポンサーが「企業として彼女のメッセージを支持することはありません。あくまで中立であろうとするのです」。

そして、変化を嫌う企業の慣習を変えるのは、恐ろしく難しいだろうと、デゥグイットは言う。

「しかし、慣習を変えられるとすれば、それは大坂なおみにしかできないでしょう」

全文はソース元で
https://news.yahoo.co.jp/articles/3394742eda64ead54c29117cdae6e77384c72df7?page=1
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