(続き)

野嶋:周さんは、政治活動と並行して現在も大学生活を続けています。政治と学業の両立はしんどくないですか。

周:いま香港バプテスト大学の4年生ですが、これまで雨傘運動や立法会議員補欠選挙の準備でかなり単位取得が遅れたので、(1年留年で)卒業は来年以降になります。
専攻は国際関係ですが、せっかく大学に入って4年生まで来ているので絶対に卒業はしたい。もったいないでしょう?でも勉強は苦手です。
特に論文が大嫌いなので、卒業したら学業は続けません。いまは大学に通いながら、「デモシスト」(雨傘世代の若者中心の政党)の活動のほか、立法会で政策研究員としても働いています。
卒業後も政治は続けますが、ほかのことにも挑戦してみたい。日本と関係ある仕事もやってみたい。「普通語(標準中国語)」が苦手で、大学を卒業するためにはコースを取らないといけないのですが、まだ取っていません。
卒業のための最大の難関です。普通語は学校教育で学んできたのですが、本当に好きではなく、日本語のほうがうまく話せます。

画像:年末年始を日本で過ごした周さん(筆者撮影)
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■周さんが影響を受けた「日本アニメ」とは?

野嶋:アニメおたくという話ですが、どうしてそうなったのですか。

周:私はアニメに小6や中1ぐらいから興味がありました。歌手やアイドルに憧れるようになり、日本語を真似するようになりました。テレビ番組などはめっちゃ見てましたが、聞く方は練習できても、喋る方はそれほどでした。
でも、雨傘運動のときに日本のメディアの記者さんがすごい集まって、香港や欧米のメディアはジョシュア(黄之峰、運動のリーダーの一人)が対応していたのですが、
日本のメディアは「日本を大好きな人がいるよ」といって私に担当を回しました。最初は通訳が必要なぐらいで「おはよう」しか自信をもって話せなかったのです。
でも取材のなかで喋る機会が増えて、記者さんから日本語の政治用語を教わり、どんどん上達しました。日本にも来る機会が増えて、デモシストのなかではすっかり日本担当ということになっています。
アニメで影響を受けた作品の一つが『PSYCHO-PASS サイコパス』というアニメです。ここでは、コンピューターが人間の性格や行動を脳波によって把握してしまうので、これから誰かを殺そうとしている人がいれば危険人物として逮捕してしまいます。
しかし、例えばワクワクして興奮しているだけで危ない人と思われてしまうし、警察に危ない人だと思われないよう人は行動するようになる怖い未来を描いています。

野嶋:それは、皮肉なことに、いまの香港の状況に近くないでしょうか。

周:そういう面は確かにあります。最近でも、香港独立を以前主張していた若者が、立法会の補欠選挙に立候補する際、「一国二制度を支持します」と表明しました。
しかし、香港政府の選挙主任は「あなたが香港独立を諦めたということは信用ができない」と、まるで彼の内心を読み取っているかのような理由で立候補資格を取り消しました。そんな風に政府が勝手に人の内心を決めていくケースが増えています。

■立候補資格を取り消された「奇妙な理由」

野嶋:雨傘運動で活躍した人たちは民衆の人気もあるので、立候補したら当選してしまう。だから、いろいろ理由をつけて立候補自体をさせない、政治参加の権利を奪ってしまう手法を最近の香港政府は採用している。
周さんも昨年、立法会議員の補欠選挙の立候補が「DQ(=disqualify:香港の流行語で『失格』の意味)」となりましたね。

周:私はいまこのDQを不服として裁判所に司法審査を申し立てています。今年6月ごろに結論が出るようです。私のDQは非常に奇妙なものでした。
私はデモシストのメンバーであるから認められない、という理由だけなのです。DQの理由のなかに、周庭がなになにをしたから、立候補資格がない、という言及は一切ありません。
私は、司法審査申し立てを通して、香港の裁判官がこの件をどのように説明するのか、その言葉を直に聞いてみたいと思っています。それで、香港の司法がまだ機能しているのかどうかわかると思います。

画像:香港議会補欠選挙の出馬無効に抗議する周庭さん・2018年1月27日(写真:ZUMA Press/アフロ)
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(続く)