(続き)

■日本人にはわかりにくい「非親中派」の複雑な実態

野嶋:香港では非親中派もいろいろなグループがあって日本人には複雑でわかりにくいところがあります。周さんは「自決派」ということですが、ほかにも「本土派」、「独立派」などが雨傘グループにはいます。一方、伝統的な民主派もいて、非親中派のなかでも意見に違いがある部分も少なくないようですね。

周:世代のギャップが強い感じはあります。民主派でも話が通じる人とそうでない人と。民主派でも年齢が高い人たちに多いのですが「香港の民主はまだ健在だ」「一国二制度は生きている」「香港には法治が生きている」と海外でもアピールします。
でも、私たちからすれば法治がもうなくなりつつあり、民主も一国二制度も危機に瀕しています。民主派の全てではないですが、現状に対する分析の角度や認識、危機感に違いがあるのです。
私たち雨傘に参加した若い世代は、(DQなどの法的措置で)選挙には参加できない。だから民主派の方々に選挙に出てもらうしかない。
でも人によって考え方にギャップがあるので、あまり投票したくない、投票に行くのをやめると考えるグループの人たちもいます。私はそれでも投票する方ですが、内心はみんないろいろ複雑です。

画像:(筆者撮影)
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野嶋:アイデンティティの認識はどうでしょう?民主派はだいたいが「自分は香港人でもあり、中国人でもある」というダブルアイデンティティです。周さんはこのアイデンティティについては自分でどんな認識ですか。

周:中国人という言葉が何を意味するのかという問題があって、中国人という言葉はナショナリズムに利用されてしまいます。中国人イコール中華人民共和国の国民ということになってしまうからです。
何人ですかと聞かれたら、香港人ですと言いますし、場合によっては、華人であるとは言います。中国人ですとは言いません。華人という言葉には「Ethnically Chinese」という意味が入っています。

野嶋:中国は「香港独立」の主張が一国二制度への挑戦であるとして、あらゆる芽を摘もうとしているように見えます。香港独立の主張を周さんはどう思われますか。

周:香港人が自ら香港人の未来を決める、というのが、私の考えであり、デモシストの主張です。2047年に香港は一国二制度の「50年不変」のタイムリミットを迎えます。
その時、香港人が自分たちの将来を決めたい。中国共産党が決めるのではなく。私自身は主張したことはありませんが、香港独立を主張する人たちの発言する権利も守るべきだ、というのが私の考えです。

【了】
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 「30時間、警察に拘束されたとき、何もすることがないので、拘置所でこの歌を歌っていました。今年の大晦日に紅白をみたけれど、センターの平手(友梨奈)さんが出ていなくて心配しました」

 2017年の香港返還20周年のとき、周庭さんはデモシストのメンバーたちと香港返還を記念する公園のモニュメントに立ちこもり、警察に排除されて身柄を拘束された。そのときも『不協和音』が周庭さんの支えになった。

 国家安全法によって突然の逮捕という事態に直面した周庭さんは「香港の民主化運動に参加して8年目になり、今まで4回逮捕されましたが、今回は一番怖かったし、一番きつかった」と語っている。

 「最後の最後まで抵抗し続ける」という思いを、拘束中の暗い部屋の中で自分に言い聞かせていただのろうか。周庭さんは『不協和音』という歌に「叛逆性」が込められているから好きだと私へのインタビューで述べていた。
本来、彼女が唱えている民主化や自由な選挙という要望は、叛逆というものではなく、中国が「50年間不変」と約束した香港の「一国二制度」のなかで認められてしかるべきものだ。

 ところが、それを理由に「国家安全に危害を加えている」ということで逮捕されてしまうというのが現在の倒錯した香港の現実で、私たちの常識からすれば真っ当に見える主張を「叛逆的」なものに逆転させてしまっているのだ。

(続く)