「この原作をマンガ化しようと考えた作家がいるとは想像しなかった。瞠目する。原作者の慧眼をもって、酷寒のロシア戦線での女性の洗濯兵と狙撃兵の異形をあぶり出した辣腕には敬意を表したい。それをマンガ化した作者の蛮勇にも脱帽する。男性の政治家と経済人たちの必読の書である。女たちは美しくも切なく強靭であったのは事実なのだ。」――本作の単行本第1巻が発売された際、『機動戦士ガンダム』『Gのレコンギスタ』を手掛ける富野由悠季監督が熱い檄文を寄せた。今回は著者の小梅けいとと監修の速水螺旋人をまじえて、本書にかける思いを語り合っていただいた。

──富野監督は、この帯文にどのような思いを込められたのでしょう。

富野 日本軍の記録しか知らなかったわれわれのような世代にとっては、衝撃的な本でした。第二次大戦のソビエト関連の戦記物は、日本ではほとんど知られていないし、僕自身もその状況を知ったのは、この本が初めてでした。しかも、この本は女性の目線で描かれていて、いわゆる日本の兵士を見送った(国防)婦人会のような目線ではないんです。ソ連の婦人たちは、第二次大戦で戦場に出ていた。戦場で洗濯兵となったり、狙撃手までやっていたことが書かれています。ここに戦争を考えるうえで、一番大事なものが記されているんです。(中略)僕はミリタリーおたくが大嫌いです! 戦車が出てくるアニメを見て、戦車を動かせると思うな、ということです。でも、自衛隊でそういうことが実際に行われつつある。それを速水さんはご存知ですか?

速水 どういうことでしょうか。

富野 航空自衛隊に女性の戦闘機パイロットが生まれているということです。

富野 それをもって男女同権だと言うんです。女性を戦闘機に乗せて、男女同権論を言えるわれわれの頭の構造、それで国防をやろうと考えている軍人っておかしくないか? それを受け入れている人たちに『戦争は女の顔をしていない』を読んでほしい。女性が戦場に出れば、(男性とは違う)いろいろな感情が生まれるんだと。それだけ強烈なメッセージがここにあるんです。

(中略)

■戦争を知らない世代だから描ける戦争の姿

富野 「ガンダム」の富野が良く言うねと言う人がいるかもしれない。でも「ガンダム」で40年間徹底的に戦争を考えてきたからわかるんです。僕が20年前に「ガンダム」を書けなくなったのは戦争で解決するものなんてないとわかってしまったからです。だから一度「ガンダム」から降りた人間なんです。『戦争は女の顔をしていない』は、われわれの世代が一番知らないことを教えてくれた。なおかつそれは文学者じゃないんです。ジャーナリストなんです。しかも、日本語の翻訳がとてもすばらしい。翻訳家の仕事としてピカイチです。三浦みどりさんという方が翻訳されているのですが、ロシア文学やソ連の風俗を熟知したうえで、文学作品ではなくドキュメント作品としてしっかりと翻訳してくださっている。本当に感謝をしています。そういう意味でもとても貴重な本です。どんなかたちであれ、ひとりでも多くの人に知ってほしい。なのでマンガ化には基本的に賛成です。マンガでこの作品を知った人は、ぜひ原作にあたっていただきたい。そして、いまの日本の政治家や経済人が一番読まなくてはいけない本でしょう。

──いまの世代だからできるマンガ化だったということですね。

富野 僕の戦争の記憶といっても、空襲で防空壕に逃げたという記憶しかないんです。その空襲で向こう三軒両隣、何人もの人が死にました。戦争が終わって、小田原の上空を飛んでいるB-29を綺麗だな、カッコイイな、あんなに綺麗でカッコいいB-29に爆弾を落とされたら、負けるよねと思いました。そのときの思いがあったから、戦後の日本人は頑張れた。自動車で世界と競いあうところまできた。でも、今度はAmazonとFacebook、Googleにめちゃくちゃにやられてる。中国にもやられて、何もできない日本人は本当にしようがねえよなと思ってる。そういう時代感覚があるから、僕らの世代は『戦争は女の顔をしていない』を受け入れたくないし、考えたくもないんです。でも、小梅世代になると、戦争の記憶なんてないでしょう。まるで戦国時代の物語のような距離感で、この作品を書いている。近代戦でどのように女性が蹂躙されているか。それは男に犯されるような蹂躙ではないのよね。戦争そのものに蹂躙されているんです。そういう意味では、小梅けいとくんは偉い。これから死ぬまで、飽きずに、この作品をマンガ化して広めてほしいと思っています。

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