僕はパナマの貧しい村で生まれ育った。それでも両親や村のみんなはとても温かく、大切に育てあげてくれて大学にまで行かせてくれた。
だから僕は一生懸命勉強して、力もつけて恩返しがしてやりたいと思った。
けれども、メジャーリーガーを目指して渡ったアメリカでは中々上手いようにチャンスを掴むことは出来なかった。

そろそろ焦りの見え始めた28の春、日本からの誘いがあった。言葉の壁の不安はあったけれども、祖国のみんなの顔が頭に浮かんだ瞬間、返事は決まった。
実際にホークスのチームメートと対面してみると、ペドロやタダヒトなど国際色豊かなチームですぐにみんなと馴染むことができた。ただ一人の男を除いて。

その人はオオミチさんといった。彼はいつでもふてぶてしかった。でも、彼を見ていると何故だか祖国の父を思い出すんだ。
そんなことをぼんやり試合中の外野でも考えていたせいで、守備ではムラマツに迷惑をかけたりしたが、その年、僕は13本のホームランを打って給料も上げてもらい、念願の故郷への大量の仕送りも実現した。

僕がある時、何を送ってやろうかとニコニコ考えていると、そばをあのオオミチさんがパンをくわえながら歩いてきた。
「オオミチサン、ドコイクンデスカ?」
オオミチさんはそれには答えず無言でパチンコ屋へと入っていくので、僕はフラフラと吸い寄せられるように後を追った。
すると、そこでのオオミチさんの顔つきは試合中のベンチとはまるで違った。
射抜くような鋭い目つきで玉を弾き、時々何かをメモしている。
僕はハッとした。僕は今年の成績に慢心していたんだ。
それをオオミチさんは見抜いていて、こういう形で教えてくれたんだ。
オフにもっと身体を絞ろう。来年からはメモをとろう。

サイコウバイ、オオミチノリヨシ。
男なら大道。