■「寂しいな」
日本高野連が選抜の開催方針の検討を行った４日、ゲートがしまった甲子園球場（兵庫県西宮市）の周辺は人影もまばらで、通常開催を断念して無観客となる可能性が高まったことが報じられた後も、ひっそりと静まりかえっていた。
「無観客でも試合はできるし、家族も学校もテレビを通じて応援できる」。近くに住む会社員の堂下稔さん（６３）は、こう話し、「球児は寂しいだろうが中止よりはまし。コロナに負けず頑張ってほしい」とエールを送った。
「無観客か、寂しいな」。球場近くで「大力食堂」を営む店主の藤坂悦夫さん（８２）はテレビニュースの一報に、落胆のつぶやきを漏らした。
昭和４１年の開店以来、多くの選手や家族が訪れ、験担ぎに名物のカツ丼を食べていった。店内の壁には過去の出場選手や他競技のアスリートの色紙がびっしりと並ぶ。「選抜が行われるこの時期は店内の空気が盛り上がり、老体にむち打ってがんばらな、と気合が入る。今年は張り合いがなくなるなあ」と嘆いたが、「選手のことを考えると中止決定にならなくてよかった。あきらめて静かに商売します」と話した。
■「感染沈静祈るのみ」
一方、甲子園球場近くにある高校野球グッズ販売・制作専門店「甲子園桃太郎」の店主、太田雄一郎さん（３６）は「厳しい状況になるとは覚悟していたが残念。営業的にも大きな痛手だ」と肩を落とした。
同店では、高野連と契約し、出場校の名入りタオルやキーホルダー、記念菓子などのオリジナルグッズを販売。春夏の大会期間中は休まず営業し、土産物を買い求める球児や多くの高校野球ファンらでにぎわう。
無観客開催となっても、甲子園を訪れる一部ファンらのため、感染防止策を講じた上で営業は続ける予定だ。太田さんは「何もかも縮小してしまっては気がめいってしまう。（開催可否決定までの）今後１週間のうちに感染拡大が沈静化することを祈るしかない」と話した。
出場校の応援グッズの製造を手掛ける「フジハラスポーツ」（大阪府吹田市）の藤原修弘社長（５２）も「売れるかどうか分からなくなった、正直に言うと痛手だ」と頭を抱えた。
すでに複数校からメガホンなどの注文が入っていたが、新型の感染拡大を受け１週間ほど前から製造工程を停止していた。高野連の方針が正式決定されるのは１１日だが、藤原社長は「高校球児たちが楽しみにしている大会でもあるので、無観客でもいいから開催してほしい」と話した。
■「早く決めて」
高野連は、今後の状況によっては、大会の中止も検討するとしており、選手の宿舎となるホテルでは大幅なキャンセルが生じる可能性もある。
東北地方の１校が宿泊予定の大阪市内のホテルには、１２日から選手ら約４５人が宿泊する予定。すでに３０部屋ほどを確保しており、担当者は「早く決めてほしいが、１１日の最終決定までは、宿泊する前提で準備を進めるしかない」と事態の推移を見守る。
一方、「例年、チームの勝ち負けにかかわらず、開会式の数日前から決勝の日まで予約は入っており、負けた時点で残り期間はキャンセルとなる」と説明するのは、別のホテル関係者。新型の感染拡大の影響で観光客らにも自粛ムードが広がっていることから「今の状況では、たとえ中止になって部屋が空いても埋まらないだろう」とため息交じりに語った。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200304-00000613-san-base
3/4(水) 20:39配信
