3/2(月) 6:00配信 毎日新聞
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200302-00000001-mai-soci

 かんぽ生命保険の不正販売を報じたNHK番組を巡り、日本郵政グループの抗議に同調したNHK経営委員会が2018年10月23日、当時の上田良一会長を厳重注意した問題で、委員長代行だった森下俊三・現委員長が「番組の作り方に問題があった」と、執行部トップで番組編集の最高責任者である上田氏を委員の面前で批判していたことが判明した。郵政側の抗議の狙いを「本当は取材内容だ」とも発言していた。関係者は「放送法が禁じる経営委員の番組介入の疑いが強まった」と批判する。【NHK問題取材班】

 ◇森下氏、郵政抗議に「ネットをうのみに現場を取材していない」

 厳重注意の議論の詳細が、複数の関係者への取材で明らかになった。

 経営委はNHKの最高意思決定機関で、会長や執行部の職務を監督するが、放送法は「番組編集の自由」を守るため経営委員が個別番組の編集に介入することを禁じている。郵政側の抗議は編集権を巡る「ガバナンス(統治)体制の検証」が名目だったが、森下氏は抗議の真意が取材に対する圧力と認識しながら、注意を主導した可能性がある。

 森下氏は厳重注意問題が発覚した後の19年10月、国会の野党会合で「番組に関する議論は一切していない」などと説明していた。しかし、実際には番組に絡む意見が複数あったことも判明し、関係者は「森下氏の国会での説明は虚偽に近い」と指摘する。

 18年10月23日の厳重注意は、不正販売を追及した18年4月の「クローズアップ現代+(プラス)」の番組に関連し、経営委員12人全員だけが出席した会合に上田氏を呼んで行われた。

 郵政側はそれまで、番組が続編に向けて18年7月に公開した、情報を募る動画の削除などを会長に要求。対応した番組責任者が「会長は番組制作に関与しない」と説明すると、郵政側は番組編集権が会長にあることを確認する文書を送った。会長が回答を留保すると、10月5日には郵政グループ3社長が経営委に対し「ガバナンス体制の検証」を求める文書も送りつけた。

 このため、経営委は10月23日に対応を協議。森下氏は、番組がネットで不正販売の情報を集めたことについて上田氏を批判した。実際には不正販売の被害者や郵政グループ幹部らを取材していたが、森下氏は「ネット(の情報)をうのみにし、現場を取材していない。番組の作り方に問題があると執行部は考えるべきだ」と主張した。

 ◇「郵政側が納得していないのは、本当は取材内容」

 上田会長は森下氏らの発言や厳重注意に対し、経営委員の一部で構成するNHK監査委員会が、執行部の郵政側への対応について「危機管理上の瑕疵(かし)は認められない」と経営委に報告したことなどを理由に強く抵抗した。

 しかし、当時の石原進委員長(19年12月退任)も「番組責任者へのガバナンスができていない。郵政3社長から文書が来ている。会長名で返すべきだ」と要求し、石原氏と森下氏が厳重注意の議論を主導した。森下氏は議論の中で「郵政側が納得していないのは、本当は取材内容だ。本質はそこにあるから経営委に言ってきた」と明かしていた。

 関係者は「番組作りの手法は番組内容に密接に絡む。上田氏の抵抗は当然なのに、強引に進めた。番組介入の疑いが強い以上、厳重注意を撤回すべきだ」と指摘する。

 ◇森下氏「非公表前提。内容は答えられない」

 森下氏は、今回判明した議論の詳細について、取材に「自由な意見交換のために非公表を前提に議論したので、内容は答えられない」と話し、石原氏は「経営委員は番組内容に触れてはいけないことを常に認識しており、番組介入は一切ない」と語った。経営委事務局やNHK広報局は「(放送の)自主自律や番組編集の自由が損なわれた事実はない」と回答した。

 ◇「番組介入の疑いが強い発言、鮮明に」

 砂川浩慶・立教大教授(メディア論)の話 森下委員長らが会長の面前で番組介入の疑いが強い発言をしていたことが鮮明になった。郵政グループからの番組に関わる圧力に対し、手先になっているようだ。経営委は、非公表の議論だったとして議事録を公開していないが、都合の悪い内容を隠しているとしか思えず、全面公開すべきだ。