――伊良部さんは、158kmの速球を投げて、非常に目立つ存在でした。日本球界で最高のピッチャーの一人に数えられています。しかし、結果を見てみると、実は日米で106勝しかしていない。

伊良部  その程度のピッチャーですよ(笑)。クレメンスや(デービッド)ウェルズは、ぼくと同じような上背で球の速さも同じぐらい。
でも彼らはそれぞれ300、200勝もしている。どうしてぼくがそうなれなかったかというと、答えは簡単。横の変化球がないんです。スライダーやカットボールがなかった。
フォークやカーブという縦の変化だけだとある程度しか勝てないですよ。

――スライダーは今や高校生でも投げますよね。

伊良部  もちろんぼくも投げ方は知ってますし、投げられます。ただ、スライダーを投げると、手首が傾く癖がついてしまって、次のストレートの球速が落ちてしまう。
だから試合中は使えなかった。スライダー、シュート、ツーシームといった横の変化球を投げられるピッチャーはコンスタントに勝っていける。
縦の変化だけで、長く勝ち星を積み重ねたピッチャーって野茂さんだけ。

――158kmのストレートがあっても駄目ですか?

伊良部  1試合120球のうち、全力投球できるのは、せいぜい20、30球しかないんですよ。 もし、体力がもって、全部158km投げられたとしても、プロのバッターには打たれます。
緩急が大切ですから。球の速さよりも、球の出どころが見えないほうがずっと大切ですよ。

――球の出どころ?

伊良部  ボールを投げるとき、バッターから腕が見えないほうがいいんです。出どころが見えれば、球筋は読めますから。
ホークスのあのピッチャー……杉内(俊哉)なんてすごいですよね。(そこまでの球速でないのに)みんなバッターが振り遅れてますものね。
勝ち負けに繋がらない速球はいらないんですよ。