令和2年も年始から多くのドラマが放送されたが、コラムニストのペリー荻野さんが注目したのはこの2作品。木村拓哉主演の特別ドラマ『教場』(フジテレビ系)と、芳根京子主演の連続ドラマ『チャンネルはそのまま!』(テレビ朝日系)だ。この2作はこれまでの2人の主演作と決定的に異なる点があるという。ペリーさんが詳しく解説する。

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 ふたつの「封印」が年始ドラマを盛り上げた

 年末年始、テレビばっかり見ていたみなさま、お疲れ様でした! 多くの特番が放送された中で、私が注目したのは、ふたつの「封印」がドラマを盛り上げていたことだ。

 一つ目は木村拓哉主演の『教場』。フジテレビ開局60周年特別企画で、放送前から白髪の木村の姿が話題になり、オンエア直後から、笑顔ゼロの演技も話題になった。しかし、ここで本当に封印されていたのは、木村拓哉の「アップ」だった。

 警察学校の教官である風間(木村)は、ある事件により右目を失明しており、常に色付きの眼鏡をかけている。その指導は冷徹で厳しく、観察力、推理力は恐ろしいほど。教え子に警察官として不適切な要素を見つけると即座に「退校届」を提出するように命じるのである。

 靴音を響かせながら教室に向かう後ろ姿、薄暗い道場でひとり瞑目する剣道着姿、花壇に水をやるうつむいた背中…カメラは遠方から木村を狙う。ほとんど彼の表情を映さない。

 笑顔はもちろん、怒りも焦りも、その表情をアップですべて拾うのが、木村拓哉ドラマの鉄則だった。だが、このドラマではそれを封印。生徒が隠し持っていた拳銃を突きつける場面では、いつものカッコよさが強調されるのか?と思ったが、アップになったのは、木村の顔ではなく、発射された弾が打ちぬいた白黒の的中心の穴だった。このドラマは、木村拓哉新ジャンルの幕開けだ。

 もうひとつ注目の「封印」は、テレビ朝日で放送中の『チャンネルはそのまま!』の芳根京子である。

 このドラマは、昨年、北海道テレビ開局50周年記念作として各地の系列局や独立局で放送されて以来、SNSや配信でも話題を集め、日本民間放送連盟賞グランプリを獲得。ついに地上波で全国放送となった。

 物語の舞台は北海道のローカルテレビ局。ここに謎の「バカ枠」として採用された新人の報道局員・雪丸華子(芳根)がズッコケつつ奮闘する姿を描くコメディである。
 
 雪丸のやることはすさまじい。撮ってきたニュース映像にレッサーパンダが二匹映って区別がつかないなんてことは序の口。芝生広場で生放送中のお天気キャスターの後ろで虫取り網を振り回す姿が映り込んだり、放火事件取材ではカメラのバッテリーが終了。デパ地下グルメ紹介番組では勝手に会場に来て試食をしまくる。だが、雪丸の驚くべきドジが、なぜか周囲を巻き込んで、番組や局全体を盛り上げてしまうのだ。彼女を見つめる情報部部長の小倉(『水曜どうでしょう』のチーフディレクターとして知られる藤村忠寿)が、「バカはきっかけをくれる…」などとバカ枠の意義を解説するのも面白い。

 芳根京子といえば、朝ドラ『ぺっぴんさん』でいろいろ苦労しつつもこども服メーカーを創立する女性を演じていた。以後、映画『散り椿』などにも出演していたが、印象としてはまじめでおとなしく、まつ毛に憂いを醸し出していたように思う。それがこの『チャンネルはそのまま!』ではどうだ。常にやる気満々で気持ちだけが先走り、思いに体が追い付かないので、なぜか鼻だけが前へ前へと進んでいるような妙な動きを見せて笑わせるのである。憂いまつ毛封印!これがよかった。

 主演俳優の従来のイメージ、得意技を封印するのは勇気がいる。しかし、それが観る人を引っ張る。ふたつのドラマは、それを教えてくれた。

2020年1月9日 16時0分
NEWSポストセブン
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