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2019年はピエール瀧や元KAT-TUNの田口淳之介、沢尻エリカなど「薬物」による逮捕が相次いだ1年となった。芸能界の闇について語った新刊『芸人と影』を上梓したビートたけしが、「クスリだけは絶対にやらない」と決意した過去の体験を明かす。

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 もう半世紀前の話になる。大学に入ったはいいものの、オイラにとっちゃそこは決して居場所のいい場所じゃなかった。大学で勉強なんてろくにしちゃいないし、そもそもゼンゼン行っていない。まずは「設計図を書いてスパナを作りましょう」なんて言うんだけど、そんなもんやってられるかって思ってた。覚えたのはイカサマ麻雀のやり方ぐらいでさ。

 で、そのうち大学の手前の新宿で途中下車してフラフラし始める。ジャズ喫茶のボーイ、タクシー運転手やら、フラフラといろんな仕事をやった後、何かに吸い寄せられるように浅草へやってきた。エレベーターボーイの募集を見たのがきっかけでフランス座に潜り込んで、いつからか踊り子や浅草芸人たちと毎日を過ごすことになった。たまたま深見千三郎って達者な師匠に出会ったおかげで、オイラは芸の道の入り口に立つことができたんだよな。

 だけどそれまでは、学校にも社会にもなんだかなじめなくて、どこかやけっぱちなところがあった。そんなオイラには、浅草の芸人たちのつくる独特の雰囲気がなぜか居心地がよかったんだ。

 その頃の浅草芸人にはみんな「世捨て人」のような感じというか、どこか人生を諦めている匂いがあった。本当はみんなテレビに出て、一発当ててやりたいんだよ。だけど、出られなくてもどこか「まァいいや」という感じがしてさ。で、みんな芸にはプライドを持っているけど、実生活は褒められたもんじゃない。フランス座の楽屋には、空になったヒロポン(覚醒剤の一種)のアンプルが至るところに転がっていた。みんなベテランの芸人たちが使ったものだ。

 そういう人たちの末路は悲惨だった。よくネタにしているけど、段ボールをかぶって隠れて、指で開けた穴から外を見回して、「俺は刑事に監視されている!」ってガクガク震えてる人もいた。典型的な覚せい剤の幻覚症状だけど、その人にとっちゃ本気も本気なんだよな。

 そんなヤバい姿を見ているから、オイラは勧められても絶対クスリには手を出さなかった。だけど、当時はそういう雰囲気こそが「芸人」のど真ん中だったんだ。テレビなんか出ずに、演芸場やストリップ劇場でたまに舞台に出て、仕事がない日は安い煮込み屋でクダ巻いてさ。

つづく

2019年12月1日 16時0分
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